2024年3月 3日 (日)

大阪万博2億円トイレについて

引き続き2億円トイレについて、書きます。 この3月1日の朝日新聞の記事には「「高すぎる」との批判が出ている会場内の「2億円トイレ」について、政府が外部有識者に対し積算根拠を説明し、妥当との考えを示した。」とある。

外部有識者とは、誰であるのか、固有名詞が示されていない。 もしかしたらこのリストの人達かなと思うが、建築の専門家はおらず、価格の妥当性を判断する能力はない人達である。 勿論、外部の専門家に独立した意見を表明してもらい、報告書を書いてもらって判断することはできる。 その場合は、その報告書を公開願えれば良いのである。 

と言うことで、探してみると、万博予算執行監視委員会というのがあり、3月1日にこの委員会で経済産業省商務・サービスグループが大阪万博のトイレについて説明した資料がここにありました。 2億円トイレを受注したのは、日本土木建設(株)と(株)東建設です。 もう一つトイレ5というのが予定価格1.9億円となっているが、まだ落札者は決まっていない。

経済産業省商務・サービスグループの説明は、一般的な公衆トイレの単価が約74万円であり、2億円トイレは単価では70万円と58万円であり高くないとしている。 大阪万博は2025年4月中旬から10月中旬までの6月間であり、そんな高価なトイレが必要なのかと思う。 6月間のトイレなら、災害時に被災地へ移動させることができるトイレを開発したら良いと考える。 移動ではなく、移設が容易であるトイレでも良いのである。

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2024年2月14日 (水)

朝日新聞の再エネ記事タイトルに驚いた

朝日新聞2月10日号の一面で、この記事タイトルで表示するとは、クリック数で稼ぐSNSと同じようだ。 大新聞とは思えないと感じた。 その記事とタイトルとは、これです。

Asahi20240210

1) 無駄になっているわけではない

発電していない。 電気は生み出されていない。 生産して、生産物が捨てられているわけではないのです。 そもそも全量買取制度において、マーケット変動に関係なく生産した全量が買い取られ、代金が支払われることは、長期契約とは言え、市場経済原則に反すると誰もが考える。

全量を買い取らず、生産量を落とし、目一杯の生産をさせずに、少ない量を引き取り、引き取った分の代金しか払われないかと言えば、引き取っても販売先がないからです。 工場を建設して、完成後の市場変化により計画した量の生産ができないことはあることです。 それを他人のせいにしても、落語の話みたいと思う。

2) 資源エネルギー庁の説明

資源エネルギー庁の説明は、ここにあります。 発電制御とは電力の安定供給が目的です。 停電等供給停止を発生させず、契約した電圧と周波数でユーザーに電気・電力を供給することは重要です。 需要イコール供給となるようにコントロールするのですが、需要はコントロールの対象とせず、供給を需要に合わるようコントロールするのです。 再エネ発電のみならず、あらゆる電気発生装置・機器が発電制御の対象です。 但し、装置・機器の安全確保も重要であり、例えば原発は日本では出力一定の運転を行っており、発電制御の対象外です。

電線を流れる電気は貯蔵されないので、需給バランスの崩れは、電圧と周波数の不安定につながるのですが、それがユーザー内を含め電力供給網の多くの場所に設置された安全装置を働かせてスイッチの遮断、ひいてはその結果によってシーケンス的に生じる更に多くの安全装置の遮断につながる可能性があります。 

電力広域的運用機関(ホームページはここ )が、電気事業法により設立・運営されており、電気事業に係る電気の需給の状況の監視、電気の安定供給のために必要な供給能力の確保の促進等の業務を行っている。 その結果、電気供給に関する公正な監視がなされ、安定供給が維持されていると考えます。

3) 太陽光の発電制御の実際

実際の九州地方における太陽光発電の出力制御を見てみる。 なお、出力制御とは、あらゆる発電機器・装置でなされており、電気回路・システムの安全な運用には欠かせないのである。 原子力発電は、出力変動を生じさせずに運転しているが、一定出力をキープすることにより安全を確保しようとする考え方です。

具体的に九州における電力供給・発電制御を見てみる。 2023年においては、4月9日は太陽光発電が発電制御により抑えられた日であった。 この日の九州地方の時間毎の電力供給は次図であった。

Kyushu2023p1

2023年4月9日の12時の需要は7,409MWであった。 これに対して、太陽光の発電供給力はこの時刻において9,782MWであったと想定されるが、実際にはその発電供給は3,934MWに制御された。 結果、差の5,849MWは発電されなかった想定電力と考えられる。 上図に於いて、黒線が需要であり、赤線が太陽光の想定発電量である。9時から15時までは、太陽光を抑制なしで発電したなら、需要の黒線を9時から15時に於いては上回る。

なお、需要が7,409MWであったとしても、揚水発電の揚水(ポンプアップ)運転を行って需要を増加させることは可能であり、同様に他の系統に電力供給を行って実質的需要(発電必要量)を大きくすることができる。 4月9日12時の揚水動力は1,406MWであり、中国地方系統への供給は1,308MWであった。上図において揚水動力は赤で、他系統への送受電は緑で示し、電力消費になっている場合は、ゼロよし下のマイナス表示とし、電力供給となっている場合はプラス表示としている。

別の例として、1日における太陽光発電がほとんど抑制されなかった日の電力供給・発電制御を見てみる。 2023年6月19日がそれ例で、次図の電力供給であった。

Kyushu2023p2

上の2つの図で抑制しなかった場合の太陽光発電は、大きな差は見られない。 4月9日と6月19日との最大の異なる点は電力需要にある。 4月9日と6月19日の需要量は、187,262MWhと235,201MWhであり、ピーク需要は8,908MWと12,044MWであった。

なお、年間を通じた場合、太陽光発電はどのようなになるか、2023年における九州地方での太陽光発電の毎日の発電量と抑制量は次図のようになった。

Kyushu2023p3

太陽光発電の場合、雨天日の場合は、ほとんど発電せず、日により発電量の差は大きい。 4月、5月は晴天なら発電量は多いが、暖冷房需要は少なく電力需要も小さい。 結果、太陽光発電は出力抑制が必要となる。

そもそも、太陽光発電設備が九州地方に多く、過密状態にあると言える。 次表は、資源エネルギー庁のWebページ(ここ )の特別措置法における再生可能エネルギー発電設備の導入量統計(2023年9月末時点)を地方毎の太陽光発電導入容量と地方の2023年発電量で示している。 なお、導入容量が都道府県単位であり、必ずしも電力系統事業者毎の需要量の地域とは一致しない。 しかし、九州地方については、導入量統計と需要量での地域に差は無い。

Kyushu2023p4

(A)/(B)が九州が11以上であり、他地域より大きい。 その結果が、太陽光発電の発電抑制となっているのである。 どのような場合でも、設備に投資をする場合は、その生産物のマーケットを考えるわけで、九州地方における太陽光発電の発電抑制は予測されたこととも言える。 

本項における情報のほとんどは、電力広域的運用機関の系統情報サービス・でんき予報・広域予備率Web公表システムからです。

4) その他

パリ協定は、世界共通の目標であり温室効果ガスの排出量を削減し1.5℃に気温上昇を抑える努力をすべきです。 この目標の達成には市場の仕組みの構築も重要と考えます。 例えば、九州地方で安い電気が得られるなら、電気がガソリンより格安なら、九州地方は電気自動車がよく売れる。 電気自動車の充電料金が日にちと時間により高くなったり、安くなったりと言うのはどうでしょうか? それともグリーン水素でしょうか? 大規模太陽光発電設備の近くには水を電気分解して水素を生産する設備を建設する。 マイナスの電力価格が導入されれば、電力消費が金を生み出す。 賢い仕組みを考え出すことこそ、将来の夢を実現する方法と思う。

次の日経記事は会員限定となっているが、考えなくてはいけない問題である。

日経 2月6日 太陽光発電「終活」に難題 2030年代、廃棄費足りぬ恐れ

様々なことを考えることは重要です。 冒頭の朝日の記事のように無駄で終わっては悲しいことです。

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2023年9月21日 (木)

黒部ダム(6)日本のダム順位 

黒部ダムの高さ186mは、日本一であり、これからもこの高さを超えるダムは日本では建設されないであろうと思う。ちなみに、現在世界で一番高いダムは305mの高さがある中国のJinping-I Dam(锦屏一级水电站)の様である。

ダムは、高さを競うものではなく、人々にどれほど役に立っているかが評価のポイントであり、評価にはマイナス評価も含めてですが、とりあえず、単純に高さ、総貯水量、有効貯水量についての日本のダムのベスト10を作成してみた。

1) 日本のダム高さ順位トップ10

次の表が高さ順位トップ10です。

Japandamhight

2) 日本のダム総貯水量順位

総貯水量で順位を付けると、高さとはやはり異なってきた。 黒部ダムは18位で、11位から17位には、玉川、雨竜土堰堤、雨竜第一、手取川、高見、有峰、矢木沢が入いる。

Japandamgvolume

3) 日本のダム有効貯水量順位

有効貯水量と総貯水量の違いは、名前の通りで、黒部ダムを例に取ると、利用水深は60mなので、186mのダムであるが、ダム基盤から120m迄は水を利用できない。利用できるのは、120mから180mの間の60mであり、この60mの水深幅が148,843,000m3の水を貯水する。 もし、水供給ダムなら水供給に利用可能な貯水量であり、洪水緩和目的なら洪水時に貯水し、下流側の水を抑制できる能力となる。

Japandamnvolume

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2023年9月11日 (月)

黒部ダム (5) 水力発電

黒部ダムは高さ186mの発電用ダムであります。 黒部ダムで貯水し、発電する水力発電の概要を考えてみます。

1) 黒部ダムの貯水量

7月21日のブログに次のグラフを掲げました。

Kurobedamcapacity

黒部ダムは、ダム基礎岩盤から186mの高さがあり、水深高180mから120mまでの水深差60mが設計利用水深となっている。 標高では、基礎岩盤が1268mであり、最低水位は1388m、最高水位は1448mとなる。 設計有効貯水量は最低水位の時はゼロ、最高水位の時は148,800,000m3である。

2) 黒部ダムの水による水力発電

黒部ダムの水による水力発電と言うと、黒部第四発電所と考えてしまいがちであるが、実際には下流にある全ての水力発電所を含めて考える必要がある。 しかし、多少複雑であることから、今回は、黒部第四発電所のみを対象として考える。 

黒部第四発電所の場所は次の地図の赤丸点にあり、黒部ダムからは直線距離約9km北方の位置である。 発電所は地下にあり、水平面で回転する発電用ペルトン水車の羽根の位置は標高858.5mである。 ダムの最高水位は1448mなので、水力発電の最大総落差は589.5mである。

水車発電機を回転させた水は仙人谷ダム貯水池・黒三沈砂地・連絡水槽を経由して黒部第三発電所と新黒部第三発電所へ供給される。 仙人谷ダムは黒部第四発電所の約850m北西の黒部川下流に位置し、仙人谷ダムの最高水位は黒部第四発電所の水車中心から7.5m低い標高851mである。 次の地図上で黒部第四発電所を赤点で示した。 河川断面図で示すと、その下の図となる。

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現在の黒部川第四発電所の最大発電出力は、この2022年3月1日付電気新聞の記事にあるように337,000kWであり、この出力は72m3/秒の水をダムから水車に供給した場合に得られる。 最大総落差の589.5mに対しては発電効率81.02%であり、記事記載の有効落差545.5mに対しては発電効率は87.55%となる。 総落差と有効落差の差は、ダムから発電水車までの水路トンネルや水圧鉄管を通っての発電水供給であることから、それらによる損失である。 なお、黒部川第四発電所完成時の発電所出力は258,000kWで、水量は54m3/秒で、水車・発電機3基であった。1973年6月に4号機の増設が完成し、出力と使用水量が増加した。 

3) 黒部ダムから黒部第四発電所の発電水車への水供給

水車発電機はダムからの水量を調整することにより出力のコントロールを行っている。 一方、ダムへ流入する水量は自然の流れであり、一定ではない。 流入水量は、ダムより上流における降雨量により変化し、黒部ダムの場合は上流地域の融雪からの水もある。 融雪以外にも涌き水も関係する。 黒部川の河川流量であるが、1964年5月号の発電水力70「黒四特集号」19ページに昭和3年度~昭和24年度平均の毎月の黒部ダムの地点における自然流量の数字が掲載されており、これを図示したのが次である。

Kurobeflow_20230910001201

2月は最も流量が少なく、20,000,000m3にもならない。一方、6月は2月の8倍以上の160,000,000m3を越える。グラフには月間流量を単純平均した1秒間の流量も右のスケールとして表示した。 54m3/秒で黒部ダムから水車発電機に水を流せば258,000kWの出力が得られ、40m3/secなら191,000kW、30m3/secnなら143,000kW、20m3/secなら95,000kW、10m3/secなら47,000kWの発電出力となる。 

上のグラフの1月から12月の月間流量を合計すると年間流量831,237,000m3となり、年平均は26.4m3/secとなる。

4) 黒部ダムによる流量調節

流入する水量を、発電用に供給するのに、月ごとの変動をなるべく小さくなるように調整をすることとして、シミュレーションを行ってみた。 シミュレーションの前提として、流入量は上の図の通りとし、ダムの貯水量は148,800,000m3であり、これ以上の貯水は不可能とする。 この前提でシミュレーションを行った結果の毎月の発電供給水量とダム貯水量のグラフは次図となった。

Kurobeflow_20230911015301

11月から翌年3月にかけては流入量より発電供給水量の方が大きく、特に1月-3月は流入水量が少ないためダム貯水からの発電水の供給が大きく、ダム貯水量は減少する。 上図は青線が流入水量で、黄線が発電供給水量であることから、青線が黄線より下にあれば、差分がダムからの水供給であり、逆に青線が上にあれば、差分がダムへの貯水量の増加となる。 なお、100,000,000m3/月は、平均38m3/秒程度になり、発電出力では175,000kW程度、50,000,000m3/月なら20m3/秒程度であり、発電出力94,000kW程度である。

5) 黒部ダムは日本一高いダム その高さを変えてみた

ダムの位置はそのままで高さを高くすれば貯水量は増加し、低くすれば減少する。 高くした場合、低くした場合を考えるため、ダム高さに対する有効貯水量を次の表のように推定した。

Kurobedam20239a

ダムへの流入水量は4)の通りであるとして、有効貯水量が上表のようになった場合の発電用水の供給を、ダムの貯水量の限度が上表の有効貯水量になるとして、4)と同じシミュレーションを実施してみた。 各ダム高さの場合の結果について発電供給水量のグラフで比較したのが次図である。

Kurobedam20239c

貯水量が少ないと、流入量カーブと発電供給水量のカーブは、その差が小さい。 一方、現在の黒部ダムの高さ186mを196mへと10m高くしても、効果はそれほど大きくなく限定的と思える。 196mのダムにすれば、環境への負荷は増加する。 また、建設費も増加する。やはり、186mで有効貯水量148,800,000m3の黒部ダムが適切であるように思える。

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2023年8月29日 (火)

黒部ダム (4)どうしてあの場所に?位置選定の理由

黒部ダムは観光目的で建設されたのではなく、エネルギー回収・発電目的で建設されたのである。エネルギー回収・発電目的とした場合、あの位置が最適となるのかを考えてみたい。

1) 安い建設費で大きな貯水量

環境影響を無視して良いわけではないが、ダム建設・ダム計画の基本は安い建設費で大きな貯水量を得ることであり、発電ダムに限らず、利水ダム、洪水調節ダムに関しても同じである。建設地の岩盤が良く、ダムの堤体が小さくて済む所が、建設費が安くなるところである。

言ってみれば、ダム建設地点での川幅は狭く、一方ダムより上流側は川幅が広くなり湖水面積が大きなダム湖が得られれば、単位水深あたりの貯水量は大きくなるわけで、そのような地点が存在すれば理想的である。

次の図(クリックで拡大)は、黒部川の河川断面図である。黒部川の主要ダムを記載した。なお、この中で、宇奈月ダムは2000年竣工であり、黒部ダム建設前には存在しなかった。黒部ダムの下流にあるのは仙人谷ダムであり、ダム湖の満水位851m。 この位置より標高の高い地点が黒部ダムの建設候補地となる。

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次の図が黒部川の断面図であり、仙人谷ダムから上流の幾つかの地点について作成した。黒部ダムより下流は深いV字谷の渓谷であり、それが黒部ダム付近を境界として、上流部はV字谷の角度が緩やかになっている。黒部ダムの地点は、地形からするとダム建設には絶好の地点である。

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2) 安い建設費を実現するトンネル

ダムとは、川の流れの直角方向に堤防を建設し、川の流れをせき止めて、流れを分流したり、流量制御を行ったりする。分流と流量制御の双方を行うことも多い。大阪府大阪狭山市にある狭山池は、飛鳥時代(西暦616年ごろ)に誕生した日本最古のダム形式のため池と紹介されている。香川県仲多度郡まんのう町の満濃池も821年に弘法大師空海が再築したと言われているダム形式のため池です。

黒部ダムは、コンクリート造のアーチダムであり、コンクリート重力ダムよりダム本体(堤体)の大きさは小さくて済むが、それでも黒部ダムの堤体積は約1,600千m3であり、ダムのみで160万トンのセメントと骨材を必要とする。この量は非常に大きいのである。例えば、ダム堤高157mの奥只見ダムやダム堤高155.5mの佐久間ダムが、それぞれ堤体積1,658千m3と1,120千m3であり、これらと比べて黒部ダムの建設は資材・機材の運搬も容易ではなく高い建設費になると考えられる。

しかし、黒部ダムは通常で考えると相当高くなると思われる建設費を安くする手段が存在したのである。それは、ダム地点と扇沢の間をトンネルで結ぶ方法である。これにより、黒部ダムが秘境とも言える黒部川の標高1270m地点であるにも拘わらず実現できた。トンネルであるから環境破壊も最小限にできた。 トンネルルートを地図(地理院地図から作成)で示すと次である。即ち、扇沢は現在の関電トンネルの大町側出口であり、西俣出合は他にトンネル出口として候補に考えられるならとして記載した地点である。 断面図を、その下に示したが、ダムから扇沢には約5kmであり、西俣出合だと10km以上となる。

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黒部ダムと扇沢を結ぶ関電トンネル(当初は大町トンネルとも呼ばれた)は、トンネル掘進開始位置の岩小屋沢横抗から1691m地点を掘り進んで、1762m地点に至るまでの71mの掘削に1932年5月1日から12月6日迄約7月(219日)を要したのであるが、トンネル工事には時として発生することとも言える。1940年11月に完成した黒部川第三発電所の水路トンネルの阿曽原・仙人谷ダム間の第1工区930mでは、岩盤温度110℃となる高熱隧道工事となった。第1工区トンネルは、1937年5月着工で、1939年6月貫通まで2年を要した。関電トンネルの破砕帯は7月という短期間で終わった。黒部川第三発電所の高熱隧道部分の工区は当初加藤組の請負であったが、工事を放棄。日本電力直営とし佐藤組が課程請負で工事を実施した。吉村昭の小説では、加瀬組、佐川組となっている。

黒部ダムと黒部第四発電所建設用のセメント・骨材、機材、重機等の輸送ルーとしては、立山越ルート、黒部川鉄道、関電トンネルの3ルートが使われたが、輸送実績は次の通りであり、圧倒的に関電トンネルが輸送手段の中心であった。 

輸送ルート 立山ルート 黒部川鉄道 関電トンネル 合計
輸送量 トン 1,800 120,000 5,500,000 5,621,800

立山ルートが利用されたのは、関電トンネル開通前の1966年・67年のみである。 関電トンネルによる輸送には骨材4,900,000トンを含む。

 

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2023年8月23日 (水)

山林設置太陽光発電の危険性

太陽光発電は、場合によっては牙をむき、災害をもたらす。

この3月8日のブログで書いた小川町ソーラー発電に関して、東洋経済が埼玉・小川町メガソーラー、事業化困難で大誤算 という記事を掲載していた。この記事で、小川町ソーラーの山林事業予定敷地の治水畜雨量が、山林状態では60mmなるも、ソーラーパネル設置の場合は37mmに減少すると報じられていた。

100mmの降水があった場合、山林のままなら40mmが流出し、60mmは地中に浸透する。ところが、ソーラーパネルが設置されると、63mmが流出し地中浸透は37mmに減少する。 雨水流出量は、100mmの降水に対して40mmが63mmへと1.6倍になる。ソーラー設置場所付近の人々は大変だろうな。浸水リスクのみならず、土砂が流出してくる恐れや災害リスクが高くなると思う。今年の7月7日にも次の様なニュースがあった。

南日本新聞 2023年7月7日 メガソーラー建設現場 大雨で農地に大量の軽石流出 調整池は土砂で埋まる 県が昨年に続き措置勧告 姶良の山林

太陽光発電高値買取制度が始まったとき、導入に向けて自然エネルギーと呼んだバカがいた。高値買取制度はなくなったが、昔の権利が完全に消滅したわけではない。しかし、消費者が負担する再エネ賦課金も現在は1.4円/kWhであり、昨年の3.45円/lkWhより半額以下にはなっている。 悪や悪者は許さず、合理的な基準で推進することが重要です。

 

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2023年8月 6日 (日)

福島原発ALPS処理水について考える

間もなく福島原発ALPS処理水の海洋放出が始まろうとしているが、無責任な当事者や関係者が多すぎように思う。

1) 感情論のみで非論理的な漁協

7月30日に西村経済産業大臣と福島県漁業関係者との面会があったとのこと。 このNHKの報道 に接して驚いた。「処理水を放出したあとは、子どもたちにとれた魚を食べさせないという声が出ている」との懸念の声が漁協側から出たとある。 事実とは異なる情報により発生した被害を風評被害であるとして、自らが風評被害の発生源となる恐ろしさである。 声の主が漁業関係者や福島の人達だとすれば、反対のための反対をするための発言だと思ってしまう。 こんな発言を聞けば、皆恐ろしがって福島の魚を食べなくなる。

やるべきことは、論理的・科学的に分析・検討して、その結果問題点があれば、その改善を提言する。 安全なら、漁協自からも福島の魚は安全であり、食するに問題ないと広報・働きかけを行い、政府にもその広報の拡大・浸透に協力を求めるべきである。

2) 国際原子力機関(IAEA) 包括報告書

7月4日にIAEAのRafael Mariano Grossi総局長は岸田総理と会見し包括報告書を手渡した(読売のニュースはここ IAEAの発表はここ )。 IAEA報告書こそ、福島原発事故処理に関する一つの大きなマイルストーンと考える。 地球上での原発事故は残念なことだが、福島が最後とは限らないだろう。 万一、事故が発生した場合に、その国が国家主権を盾に外国の関与を拒むことがあるかもしれない。 IAEAが原発の事故処理、安全確保に関与することは重要であると考える。

原発事故が発生した場合、放射能汚染は、原発が位置する国に止まらない。主権国家が、幾ら法律を作っても、放射能は法律を守らない。放射能という物理的性質に対応して人類は対処しなければならない。 原発事故が発生した場合、IAEAが関与し、国家秘密を作らせず、必要な情報開示をすることを原発に関する国際的なルールにすべきと考える。 今回の福島事故に関するIAEAの関与については大賛成である。

IAEAの包括報告書はIAEA発表の中にリンク先がある。包括報告書は、信頼性高いと考えられ、タスクフォースには多くの国の専門家を含んでいると述べられている。アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、中国、フランス、マーシャル諸島、韓国、ロシア、英国、米国、ベトナム。

ALPS処理水については、IEA包括報告書は次の様に述べている。(Executive SummaryのPage v)

The IAEA recognizes that the discharge of the ALPS treated water has raised societal, political and environmental concerns, associated with the radiological aspects. However, the IAEA has concluded, based on its comprehensive assessment, that the discharge of the ALPS treated water, as currently planned by TEPCO, will have a negligible radiological impact on people and the environment.
<ブログ主の参考訳>
AEAは、ALPS処理水の排出が、放射能汚染について、社会的、政治的、環境的な懸念を引き起こしていることを認識している。しかし、IAEAは、包括的評価として、東京電力が現在計画しているALPS処理水の排出は、人々および環境に対する放射線による影響はごくわずか(Negligible:無視可能域)であると結論付けている。

IEA包括報告書24ページ(2.6 人体への放射線影響)に関する表も興味深い。

  国際基準 ALPS処理水排出の場合(一人あたり)
通常の稼働状況での被爆リスク 年1mSV以下 年0.000002-0.00mSVm
事故等非常時の被爆リスク 1事故5mSV 1事故0.002から0.01mSV (下記参照)

事故時の被爆想定は、希釈前のALPS処理水のタンク10,000m3から漏水して海に流れ出た場合と10,000m3の3つのタンクから事故で1日間漏れ出した場合としている。 なお、環境省はこのWebのように日本平均の放射線被曝量は年2.1mSVと述べています。 海洋生物への影響についての表もある。(27ページ)

  国際基準(国際放射線防護委員会ICRP)

ALPS処理水

カレイ・ヒラメ 1日10-100 mGy 1日0.0000007mGy
カニ 1日10-100 mGy 1日0.0000007mGy
海藻類 1日1-10mGy 1日0.0000008mGy

海洋生物とは、多くが産卵からの平均寿命は極めて短いのであり、放射線の影響は人間や陸上動物とは異なる。 なお、海洋生物への影響であり、食用として摂取する場合の基準ではない。しかし、福島産の魚類等の放射線は測定不可能なレベルである(例えば、ここ に福島県の水産物検査結果があるが、海の物は全て検出せずとなっている)。 ALPS処理水を海洋放出しても、変わらないし、3H(トリチウム)を問題にするとしても、海洋中に既に存在するのであり、有効な測定方法はない。

IAEAがALPS処理水海水放出に問題なしとしているのだから、日本政府に日本及び世界に対して安全性を訴えるよう要求するのが漁業者としての賢い戦略と私は思う。風評被害の支援は、方向が間違っているように思う。

3) ALPS処理水

ALPS処理水の放射性物質は、そのほとんどが3H(トリチウム、三重水素)であり、分析結果を探すとIAEAの2023年5月の報告書の第5表に次の分析結果があった。単位は、1リットルあたりのベクレル(Bq/L)である。

Fukushimaalpswateriaea

ALPS処理水の排出について、東京は電力はこのWebで、100倍以上に希釈した上で、トリチウム放出量は22兆ベクレルを下回る水準にすると説明している。上の表で3H(トリチウム)の数字が一番高いのはLS(スイスの研究所)mp165,800Bq/Lであり、100倍の希釈だと1658Bq/Lに止まるが、100倍以上だし、サンプリング測定も実施するので、問題はないと考える。

4) 年間排出量22兆ベクレルについて

次に年間排出量22兆ベクレルについて考える。

このトリチウム(3H)に関する説明は多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(第8回)における資料であり、3ページ目に日本の原子力発電所からの3H(トリチウム)の排出量についての記述がある。この3Hの排出量について、もう少し調べてみる。次は、東京電力福島第一原発で2003年度から2009年度まで海洋放出した3H(トリチウム)の量である。なお、この数値は原子力規制庁・原子力規制委員会が公表している原子力施設に係る放射線管理等報告((2012年までは原子力安全基盤機構による原子力運転管理年報)からである。

Tritium2023f1

日本における3H(とリチウム)の原子力発電所毎の年度別排出量は次のグラフの通りである。

Tritiumdischarge2023pp_20230805160401

発電所別ではなく都道府県別に整理すると次の様になりました。

Tritiumdischarge2023prf

何故、原子力発電所から3Hが排出されるかですが、ここに日本原子力産業協会の説明がある。 この説明によれば、核分裂や10B(ホウ素)の中性子照射により3Hが生成され大部分は燃料棒内に止まる。しかし、それ以外に制御棒に含まれる10Bや一次冷却水に添加されている10Bが中性子照射を受けて3Hが生成され、これが3H海洋放出となる。

3H放出量は、沸騰水型原子炉(BWR)と加圧水型原子炉(PWR)では、PWRでの放出量が多く、PWRの原発が運転されている福井県、愛媛県、佐賀県、鹿児島県、北海道における3H放出量が大きい。

ALPS処理水排出基準にしようとしている22兆ベクレルの由来であるが、上に示したこのトリチウム(3H)に関する説明の5ページ目に福島第一原発の「事故前の放出管理目標値は年間22兆ベクレル」とある。これを採用したのである。この22兆ベクレルは日本全体での過去最大が400兆ベクレルなら、その20分の1。現在日本全体で100兆ベクレルとすれば、その5分の1である。放出しないで管理することのリスクと低レベルに希釈して管理して放出することのリスクを考えれば、放出が妥当であると考える。

なお、福島第一原発の事故時に海域に流出した3Hは存在し、100-500兆ベクレルと言われているが、この流出は管理報告の対象外であり、除外している。

5) 世界の3H放出量

環境省のこのWebページに世界の原子力施設からの3H排出量の比較があり、フランスのLa Hagueという施設は年11,400億ベクレルということで、福島事故前の日本全体の水準の30倍という水準である。(環境省の説明は英語のみであり、日本語のページでは、幾ら探しても出てこない。 日本国民をどう考えているのだろうかと思ってしまう。)

La Hagueは、原子力発電所ではなく、MOX燃料等をつくる核燃料再処理工場である。日本も使用済み核燃料の加工をフランスに委託しており、La Hagueでの3H排出に無関係ではない。日本とフランス両国における3H排出量は次のグラフの通りである。

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また、4)の文章の出だしで引用したこのトリチウム(3H)に関する説明の最終9ページ目には次の図があり、世界では多くの施設で3H(トリチウム)が放出されている。

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La Hagueに見られるように、使用済み核燃料の再処理では特に多くの3Hの放出を伴うようです。日本でも、六ヶ所村再処理工場の稼働が始まれば、3Hの放出があるはずです。 廃炉にした日本の研究開発炉「ふげん」、「もんじゅ」からも3Hは現在も海水放出されている。 原子力潜水艦から、量は把握できていないが、3Hを放出される。 なお、核実験こそ、大量の3Hを放出する。次のグラフはフランスIRSNのこのページ(トリチウムと環境)にあるグラフで、1963年頃北半球に於ける大気中の3Hは異常に高かったことが分かります。 1963年に部分的核実験禁止条約(PTBT)が結ばれ、大気中、海中、宇宙に於ける核実験の禁止が当時米・ソ・英で合意された。 考えれば、水素爆弾とは2H(二重水素)や3H(トリチウム)の核融合エネルギーを利用する爆弾である。

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本テーマについては、報道等で取り上げられても、ある部分のみだけを伝えているのみと考え、ブログ主が考えていることを書いてみました。 ALPS処理水排出は夏休み明けなんて、良かれと思って発言されたと理解するが、風評被害の拡大にもなりかねない可能性がある。よく考えねばと思います。

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2023年7月21日 (金)

黒部ダム (3)環境影響

黒部ダムの環境影響について、気になるのはダム湖。すなわち、ダム湖となり水没して失われた地域の自然・環境である。残念ながら黒部ダムが存在しなかった以前の状況は戻ってこないと考える。

1) 黒部ダム建設前のダム湖地域

黒部ダムの位置は黒部下廊下の上端位置であり、この地点から下流部分が下廊下となる。黒部ダムが満水となった場合は、その満水位標高は1448mであり、黒部川が標高1450mにある位置とは、黒部川が上廊下となる付近に近い。違った表現をすれば、黒部ダムとは、上廊下と下廊下に挟まれた部分を貯水池となるように建設されたダムであるとも言える。

ダム建設前のダム湖予定地域の写真を探したが私には見つけることはできなかった。 そこで、国土地理院(地理調査所)の黒部ダム建設以前である昭和30年7月30日発行の5万分の1地形図「立山」の謄本を入手して、観察した。次図がその謄本であり、中央付近で青の円弧で示したのが黒部ダム付近。中央下部で青円で囲んだのが平ノ小屋・平渡場付近である。

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ダム湖となったのは黒部ダムの上流(南)であり、満水時の湖面水位は1448mであるから、標高がこれより低い部分がダム湖となっている。ダム湖の上流端(南端)は、上の地形図では黒部川が図外となる付近である。ダム湖は黒部川の上廊下と下廊下に挟まれた部分であり、地形図で見ても廊下と呼ばれる垂直に切り立った渓谷ではない比較的穏やかな部分と推定される。

現在の地理院地図で計測した場合、黒部ダム湖が満水になった時、その上流付近はダムから直線距離で約7kmである。一方、下流にむいて直線7kmは十字峡の少し下流である。その川面標高は約940m。ダムの基礎面が標高1268mなので、ダムより下流に7km下がると標高は328m低くなる。一方、ダムより上流側は7km登って1448mなので、ダムの基礎面1268mとの差は180m。ダムから下流部分は1.8倍以上の急勾配・急流なのである。

満水位1448mに相当する黒部川川面地点に相当する上廊下の下流端付近から7km上流に遡った地点は薬師岳の金作谷が合流する付近であり標高1650m程度。上廊下も7kmで河川標高差202mである。ダム湖となっている黒部川の部分と比べると急流である。

2) 平の渡し

1956年(昭和31年)6月30日の厚生省富国第420号の黒部ダムに関する許可の第10項目は次であった。

十 針ノ木谷ー平ノ小屋間の歩道及び釣橋の代替として無料渡船を設けること。

無料渡船は関西電力が山小屋「平乃小屋」に委託して運営していると了解するが、平乃小屋の紹介は山の月刊誌PEAKSのこのページにありました。また、山のSNS Yamarecoに平の小屋に関しての投稿記事として黒部の「平の小屋」の元祖と、弥三太郎伝説がありました。この記事に、平の小屋付近は川幅が広がった「黒部平」と呼ばれていたと書かれている。

3) 黒部ダム湖

平の小屋から3km程上流に行った地点が黒部ダム湖の最上流部であり、そこから少し更に上流に行った地点付近から黒部上廊下が始まる。黒部ダムは黒部下廊下と上廊下の間に挟まれた直線距離で7km程度の黒部川上流でも急峻な渓谷ではない部分が貯水池となるようにダム位置が選定されている。そして、黒部ダムは高さ186mで、総貯水量199,300,000m3、利用水深60mで有効貯水量148,800,000m3を確保している。なお、満水位での湖水面積は1,489,000m2である。黒部ダムの湖面標高と貯水量の関係は次のグラフに近いと推定する。
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2023年7月10日 (月)

黒部ダム(2)環境影響評価

黒部ダムの環境関連について、もう少し触れてみたいと思います。

1) 環境影響評価

黒部ダムが建設された当時は、環境影響評価や環境アセスメントに関する現行の制度は存在しなかった。しかし、ダムの建設および運用に関連して発生する環境への負荷や影響が無視されたわけではない。

環境影響評価法が日本で制定されたのは1997年であり、環境基本法のその4年前の1993年である。但し、1972年(昭和47年)6月に「各種公共事業に係る環境保全対策について」が閣議了解されて以来「公有水面埋立法」等の個別法、各省庁の行政指導、地方公共団体の条例、要綱等により環境影響評価か行われることになり、公共事業での環境アセスメントが導入され、1975年頃までには港湾計画、埋立て、発電所、新幹線についての制度が設けらていた。1972年以前に建設された黒部ダムは、環境影響評価の対象になり得なかったのであるが、建設地が国立公園内であり、国立公園法(注1)の適用対象となった。

昭和40年9月に関西電力株式会社により黒部川第四発電所建設史が発行されており、その中に資料として「黒四建設史年表」がある。この「黒四建設史年表」に『(1955年)30.12.15 黒四建設に係る諸行為につき、国立公園法に基づく許可申請書提出』とある。その4か月前となる部分に『(1955年)30.8.18 日本自然保護協会、黒四発電に関する反対陳情』とある。決して、反対運動がなかったわけではない。

国立公園協会発行「国立公園 81 AUG. 1956」に田中敏治氏が『黒部川発電問題の回顧』という文章を書いておられる。当時の黒部ダム建設に関する環境保護・自然保護に関する意見と考えることから、その一部を紹介する。


この計画が国立公園に及ぼす影響としては、黒部峡谷の核心である国際的規模を有する下廊下一帯の峡谷水を奪うことによって決定的な景観破壊が行われることが予想される重大問題であるので、昭和29年、30年の夏2回に亘り国立公園審議会委員の参加を願い、実地踏査を行い検討を重ねた。
昭和30年の12月15日関西電力株式会社から正式に黒部第四発電所建設に関する申請があり、同31年2月16日開催の国立公園審議会に本件に対する意見を求められ、特に電力関係特別委員会を設け慎重な検討を行った結果、回を重ねること10回6月14日に至って条件付き許可を適当とする旨の意見書が厚生大臣に提出された。

1956年(昭和31年)6月30日に厚生省からの許可が出て、建設省から1月ほど後の7月28日に河川法水利使用変更許可が、そして8月27日に河川法工事実施認可が出た。8月31日には、建設に関する工事請負契約が完了した。

2) 黒部川扇状地農業用水問題

黒部川扇状地では、古くから稲作が営まれてきたが、黒部川の水温が低冷であることから、稲作冷水温障害が発生することもあった。黒部ダム建設・運用により川水の温度が下がれば、冷水温障害の発生確率が高くなる恐れがある。

この冷水温障害に関して、「黒四建設史年表」には、(1959年)34.8.22に「令水害補償妥結」とある。村串仁三郎氏が書かれた中部山岳国立公園内の黒部第四発電所建設計画と反対運動」は、次の様に記載している。

 一方,黒部第四発電所建設計画に反対していた地元農民も,1956年8月15日の『富山新聞』によれば,「黒部第四発電所建設をめぐる冷水害問題は十五日の午前十時から県知事室で関電代表と地元代表の間で話し合いが行なわれ,関電側の譲歩により午後四時両者の間に仮調印,ここに今春いらいもんでいた難問は解決をみた。このため県ではちかく発電所の工事認可をあたえるもようである。」と指摘し以下のように報じた。

「この日,県側高辻知事,成田副知事,川崎総務部長,中田農地部長,県会側柚木農地委員長,地元代表笹島,古市,油谷三県議,荻野黒部市長,金森朝日町長,米澤入善町長,永口舟見町長,関電側から森副社長らが出席して,約七時間の長時間の秘密会議を開き知事のあっせん案を協議した。
その結果根本方針である食糧増産,電源開発の二点を双方の立場から解決することに急速に話がまとまり。
一,上流の貯水池で表面水を取る施設をする。
二,本流発電所の水とかんがい水を分離する。
三,流水客土事業に県も協力する。
の三項目の協定事項を了解し,森副社長と地元代表者の間に仮調印を行った。」

表面取水のための取水設備は、ダム湖右岸(東側)にあり次の写真(Google MapのStreet Viewで作成)の白丸部分の設備である。

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表面取水とは、水は摂氏4度において比重が最大であることから、外部から熱が加わらない場合は、比重の大きな4℃の水が底部に滞留する。従い、ダム湖の湖水面付近が水温が相対的に一番高く、水面付近で取水するような方式の設備が表面取水設備である。

具体的には、上の写真の道路に見える部分がダムの堤頂であり標高1454m。黒部ダムの基礎岩盤面は標高1268mであり、基礎岩盤面から堤頂までのダムの高さ(堤高)が186mであり、日本一高いダムである。ダム湖の満水位は、堤頂から6m低い標高1448mであり、ダムの設計利用水深60mを差し引いた最低湖面位置は標高1388mとなる。取水した水は、延長10,317mの取水トンネル(ダム位置で標高1365m)を通って圧力鉄管の上部(標高1330m)まで流れる。従い、取水位置は標高1388mから1365mの間であるのが通常と言えるが、水面下最大70mになるかも知れず、低水温の取水となるかもしれない。

そこで取水位置を調整することができる設備を設置したのである。上からの写真(Google Map)は次である。
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(注1) 国立公園法(1931年(昭和6)年4月1日公布)は、1957年(昭和32年)6月1日に自然公園法が公布され、廃止された。

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2023年6月29日 (木)

黒部ダム(1) 観光放水始まる

多くのニュースが、黒部のダムでの観光放水が始まったと伝えています。その中から、6月22日の信濃毎日デジタルニュースです。

夏を呼ぶ迫力の水しぶき 60周年の黒部ダム、観光放水始まる【動画・写真複数付き】

どの報道でも、黒部ダム60周年と伝えており、これを機会に黒部ダム、黒部水力発電開発、富山県水力開発に関しても、断続的になりますが、機会を見つけ、おりにふれて書いていきたいと思います。

なお、60周年と呼んでいるのは、1963年(昭和38年)6月5日に竣工式を行っており、竣工式から60年となるので60周年と理解します。なお、黒部第四発電所で発電を開始したのは、2年少し前の1961年1月15日からで、当初計画の3機の水車発電機全てが発電を開始したのは1962年8月1日でした。

1) 観光放水って何?

まずは、観光放水とは何であるのかですが、1956年(昭和31年)6月30日の厚生省富国第420号の黒部ダムに関する許可がその根拠であり、「XXXX申請の中部山岳国立公園特別地域内工作物の新築及び水位水量の増減を来たす行為の件は、次の条件を附してこれを許可する。」とある(出典:注1)。 当時と今では省庁の組織や役割分担も異なっている部分があるが、国立公園に関する行政事務は厚生省であった。

許可書の第1項目目に記載されているのが、次の条件である。(御前沢堰堤とは黒部ダムの当時の名称である。)

1 黒部峡谷の景観維持のため、御前沢堰堤から次のとおり放流すること。

(1) 放流時間

6月26日から7月31日まで、午前6時から午後5時30分まで
8月1日から9月10日まで、午前6時30分から午後5時まで
9月11日から10月15日まで、午前7時から午後4時30分まで

(2) 放流期間及び放流量

6月26日から8月15日まで、毎秒15立方メートル以上
8月16日から10月15日まで、毎秒10立方メートル以上

ただし、その日の放流停止後その日のうち又はその翌日にかけて、御前沢堰堤地点において、降水量が50mmに達したときは、その翌日中又は翌日の残余の時間の放流量は減ずることができるものとする。

放流の目的としては、黒部峡谷の景観維持とされている。ダム自体の観光目的ではなく、河川水の発電利用による減水区間の流水量維持がその目的である。具体的には、黒部ダムから黒部第四発電所・仙人ダムまでの黒部川の河川水維持である。

2) 黒部ダムー仙人谷ダム間(下廊下)

観光放流により水量維持をする区間には、下廊下と呼ばれている登山道があり、終点である仙人谷ダムから直線距離で約900m下った付近にある阿曽原温泉小屋があり、そのWebの (阿曽原温泉小屋Webアルバム)というこのページに、年間通行期間は平年だと9月下旬からで、10月末で小屋は営業終了と書いてあり、通行できるのは極めて短期間です。 阿曽原温泉小屋のWebに2023年の下廊下開通情報は未だないが、2022年はこの記事のように10月20日で「慎重に歩いてもらえれば通行できるまでに作業が進んでいます。」とのこと。2022年は通行可能約10日間だったということでした。

下廊下とは、どのような所かはこの富山県警地域部山岳安全課のYou Tubeを見ると迫力があり、よくわかります。

阿曽原温泉小屋のWeb (阿曽原温泉小屋Webアルバム)には、ルート整備について この区間は、関西電力が黒部ダム建設時に、旧厚生省(現環境省)との間で交わされた付帯条件として、ダム建設後もルートの整備を行なうこととなっております。
毎年、転石の除去・丸太桟道の補修や取替え・手すりの補修・迂回路の整備などなど、多額の費用と手間を掛けて地元業者が整備に当たっております。

下廊下ルート整備については、厚生省富国第420号の許可条件として、次の様にあります。

12 黒部川左岸旧日電歩道は、国立公園歩道としてこれを維持し、公衆の利用に供すること。

当時も今も関係者の方々が見守り、尽力していることにより成立しているプロジェクトだと考えます。但し、自然に手を加えたことに相違はなく、自然保護・環境保全の観点も忘れてはならない。黒部ダムに関連して、様々な角度から、この続きを書いてみたいと思います。

(注1) 国立公園協会発行「国立公園」81 AUG. 1956

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