2018年7月19日 (木)

西予市野村町肱川氾濫と野村ダムについての検証

愛媛県西予市にある野村ダムの操作が悪くて基準量の約6倍の放流され、ダムから約2km下流の野村町で肱川が堤防を越え、約650戸が浸水し、住民5名が死亡したとのニュースがあった。

ダムの操作が悪かったのか?浸水が予想されるにも拘わらず、避難が遅れ、被害を大きくしてしまったのか?検証をしてみる。

1) 野村ダム

野村ダムは国交省が保有・管理するダムであり、1973年建設開始、1982年完成のダムです。堤頂長300m、堤高60mで有効貯水量12,700千m3のダムです。目的は洪水調節ならびに農業用水と水道用水です。洪水調節ならびに農業・用水の利水目的として有効貯水量は12,700千m3である。洪水期の6月16日から10月15日の期間は利水目的でダムに貯水しておく水量は9,200千m3であり、他の期間(秋・冬・春)は11,900千m3となっている。

宇和島市、八幡浜市、西予市、伊方町のミカン農家と住民に対する水供給を担っており、各農協や市町役場との協定も存在するはずである。野村ダムは肱川のダムであり、肱川の河川は野村ダムからは東に流れ、北に折れた後、予讃線伊予長浜駅付近の伊予灘で瀬戸内海に流れ込む。しかし、野村ダムの利水の多くはダム本体から少し上流側の文治が駄馬の取水塔で取水されて西方に水路トンネルを通じて供給される。例えば、27.2kmの水路トンネルにより八幡浜市布喜川にある布喜川ダムに供給されたり、更にその先は佐田岬の先端に近い三崎にも供給されたりしている。

野村ダムの目的は、渇水時のための水供給源を確保しておくことであり、利水側の権利者としては最低でも野村ダムにを9,200千m3を貯水しておく権利を持っている。そこで、洪水調節として利用可能なのは、6月16日から10月15日の期間3,500千m3であり、それ以外の期間は800千m3である。

2) 7月6日から8日の野村ダム

7月6日、7日、8日の野村ダムの貯水量、流入量、放流量のグラフを書いた。

Hijikawa20187a

このグラフの貯水量(右軸)を見ると6日の午前1時頃は7,500千m3であり、通常の利水容量確保を考えた9,200千m3より貯水量を抑えて、洪水調整能力を高めていた事が分かる。(7月1日の貯水量は9,464千m3であり、通常の利水容量を確保していた。)

流入量は7月6日午後2時頃から急に増加し始め250m3/秒を超え、6日午後10時には300m3/秒を超えた。上のグラフには7日午前7時の最大1,593m3/秒があるため300m3/秒は、あまり大きいと思わないが、放流をしていない場合は、1時間値は1,000千m3であり、野村ダムの通常の洪水調整能力3,500千m3は3時間半で満杯になる。

流入量は7日午前4時から急増し、午前4時571m3/秒、午前5時716m3/秒、午前6時1074m3/秒、午前7時1593m3/秒となってきた。放流量は、午前6時頃までは、なんとか300m3/秒程度以下とする事でコントロールしてきたが、午前6時には貯水量が11,423千m3となってしまい、野村ダムの有効貯水量12,700千m3にほぼ達してしまった。ここで、コントロールは及ばず午前7時の1593m3/秒は、そのままダムから下流に出て行った。貯水量が12,700千m3に戻るのは、翌日の7月8日午前9時の事であった。

3) 教訓

2)に書いたようにダムは、見事にその役割を果たした。野村ダムが放流したから洪水を引き起こしたというような報道もある。しかし、野村ダムは精一杯限界まで頑張ったのである。

野村ダム(国交省野村ダム管理所)は、ダム情報を適切に伝えたかであるが、7月12日のこの47ニュースによれば、7日午前2時半に西予市へ、午前6時50分の満水予想を連絡した。それ以前のコミュニケーションがどうなっていたか不明であるが、もう少し、早い時点でダム満水の危険性が予知できたかも知れないと思う。野村ダムの洪水調整無能力告知を午前2時に突然受けても、西予市役所は困ってしまった可能性もある。7日の午前5時10分から防災無線を通じての避難指示を出し、同時に消防団が各戸巡回を開始したとの報道がある。

洪水調整能力3,500千m3というのは、ダムの中でも小さい方である。近くにダムがあれば、そのダムが洪水を防いでくれると思ってしまうが、自然の脅威の中では、ダムの力なんて小さいのである。そのことを念頭に置いた安全計画(LCP)を考えておく事が重要と思う。

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2018年7月18日 (水)

倉敷市真備町の浸水被害から学ぶLCP

直前のブログ西日本豪雨から学ぶべきことにおいて、小田川が倉敷市真備町に流れ込む直前にある矢掛町東三成の水位観測所での観測データを使って、小田川の河川水位のグラフを書き、河川水位が上昇して危険が生じると予測された時点での避難決断ができないかを考えた。

今回は、上流での降水量を見て考える事とする。気象庁の気象データからで、倉敷市真備町の上流地域である矢掛(住所:岡山県矢掛町東三成)と佐屋(住所:岡山県井原市芳井町佐屋)の1時間毎の降水量のグラフである。

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7月5日午前3時頃から矢掛でも佐屋でも降雨量が増大していった。最大雨量は矢掛で7月6日午後10時に23mmを記録し、上流の佐屋では1時間前の午後9時に32.5mmを記録した。7月6日午前0時からの累計雨量は、次のグラフとなる。

Odariver2018719d

7月6日午前0時から7月7日午前9時までの累計雨量は矢掛では210mmであり、佐屋では279mmとなる。

このあたりでの夏期月間雨量は200mm程度と想定され、1月分の雨が1日半で降ったのである。近年の小田川での最大浸水被害は昭和47年7月の洪水であった。当時、床上浸水5,203戸、床下2,144戸、全半壊227戸、そして浸水農地3,765haであったとのことである。この昭和47年7月の洪水時の矢掛雨量観測所における最大日雨量は94㎜、9日から13日の4日間での総雨量は 210 ㎜を記録した。今回は同じ矢掛で33時間の間で210mmとなったのである。

真備町の小田川反乱について土屋信行氏がYomiuri Onlineに川の水位上昇が避難基準では逃げ遅れるという記事を書いておられる。この記事の2ページ目に倉敷市役所は小田川の南側の住民には6日午後11時45分に避難指示を出し、川の北側の住民にはその1時間45分後の翌日午前1時30分であったと書いておられる。北側が遅れた理由はあったはず。

6日の午後9時に佐屋で豪雨は32.5mmとなり、矢掛で午後10時に23mmとなった。午後9時、10時の矢掛での小田川水位は3.5mであり、同日午前4時の3.0mから0.5m上昇していた。豪雨の結果、小田川水位の更なる上昇が予想された。6日午後11時、午前0時の水位は4.09mであり3時間で0.5mの上昇であった。

将来に生かせる教訓は多いと思う。自分で自分の身の安全と財産被害も少しでも軽減する安全計画(LCP:Life Continuity Plan)を考えておくのが重要だと思う。

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2016年4月25日 (月)

1981年5月以前の木造住宅に住んでいる場合は耐震補強をお奨めする

熊本地震により大変な思いをされておられる方々に対し、お見舞い申し上げます。住宅の被害も多いようで、耐震補強をしていれば、大丈夫と断言することまではできないでしょうが、少しでも被害を少なくすることができたと思うので、耐震補強のお奨めを書きます。

1) 危険な住宅

在来工法の木造住宅に限定させて下さい。木造住宅以外については、私も調べ切れていません。

危険なのは、1981年5月以前の住宅です。何故ならば、このWebページに「建築基準法に見る木造住宅の耐震基準の変遷」というのが書いてあり、そこの1981年の所に次の記述がある。

1981年 建築基準法施行令大改正 新耐震設計基準

1978年(昭和53年)の宮城県沖地震後、耐震設計法が抜本的に見直され耐震設計基準が大幅に改正された。
現在の新耐震設計基準が誕生した。

これが1981年5月以前の住宅に地震の危険性ありとする根拠です。熊本地震での住宅倒壊の様子はこの日刊スポーツ4月16日の写真にもあるが、恐ろしいですね。

2) どうすれば良いか

ずばり自分が住んでいる市町村役場に問い合わせましょう。都市計画や住宅建築確認をしている部課が対応してくれるはずです。勿論、自分から信頼できる業者や建築家に相談したり、防災協会のようなところに相談しても良いと思います。電話で不安をあおって売り込んでくる詐欺まがいの悪質業者は相手にしてはなりません。下手をすると、熊本地震を契機に高齢者を騙しまくるかも知れないと思うので、要注意です。

3) いくらかかるか?

ここに財団法人日本建築防災協会のパンフレットがあるが、100万~150万円が最も多く、全体の半数以上が約187万円以下と書いてある。

4) 助成制度・融資制度・税金還付

助成制度・融資制度・税金還付と聞くと至れり尽くせりの感もあるが、決して自己負担ゼロではない。それでも安心が買えるならとして熟慮すべきと思います。

助成制度ですが、市町村により異なるので、市町村役場にまずは相談です。助成内容は、耐震診断費用の助成金、改修費用(耐震改修・耐震・建替・耐震シェルター設置)の助成金などです。何バーセントが助成され、上限があったり、予算で打ち切りがあったりすることもあります。

税金還付については、所得税の還付を紹介します。租税特別措置法41条の19の2です。最大25万円が還付されます。但し、基本は改修費用の10%なので、200万円だとすると20万円です。助成金を受けているとそれを差し引いて自分が負担した額なので、200万円で80万円助成金を受領していた場合は、120万円が負担金額で、その10%の12万円が税還付されることとなる。

当然確定申告が必要で、その際に市町村役場が発行した住宅耐震改修をした証明書を添付する必要があるが、住宅所得控除のように住宅借入金を借りている条件はないので、耐震改修工事証明書と工事費の領収書があれば大丈夫です。

でも、欲を言えば、親の住む田舎の古い住宅を耐震改修して自分が費用を負担した場合も、この税金還付は適用があって欲しいと思うのですが、私の理解では、自分の住む家の場合だけです。親が所得税を払うほど収入があればよいが、そうでない場合の話です。

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