2025年7月 1日 (火)

生活保護費に関する最高裁判決

6月27日に生活保護費の減額を巡る裁判で、最高裁は争われた減額について違法であるとの判断を下した。 判決文は、次の最高裁Webにあります。

(A) 名古屋高裁判決の上告審 (名古屋高裁は減額を違法と判断し、市が上告していた。 一方、第一審では受給者の請求は棄却されていた。)
(B) 大阪高裁の上告審 (大阪高裁は市による減額を合法と判断し、受給者側が上告していた。 一方、第一審では受給者の請求は認容していた。)

最高裁は、(A)について上告を棄却し、(B)について被上告人・市の控訴を棄却した。 本裁判に関しては、この日経の6月27日の記事かよく書けていると思います。すこし頭が混乱しそうですが、いずれにせよ最高裁は(A)、(B)いずれの訴訟でも、減額は生活保護法3条、8条2項に違反して違法であったと判断した。 

1) デフレ調整

生活保護費を消費者物価指数の変動に準じて調整し、デフレにより消費者物価指数が下がっている場合、消費者物価指数に準じて生活保護費を減額するのがデフレ調整です。

デフレ調整そのものは、物価下落・すなわちデフレがあれば、最低限度の生活の需要を満たすための金額は減少するわけで、デフレ調整があっても当然である。

しかし、厚生労働省がは、総務省の消費者物価指数(CPI)ではなく、独自に計算した生活扶助相当CPIなる指数を使った。 生活扶助相当CPIのWikiはここにありますが、今回の最高裁判決文では、総務省CPIを用いると物価下落率は2.35%であり、生活扶助相当CPIを用いると物価下落率は4.78%と2倍以上になる(大阪高裁上告審の判決文21ページから。)

本件のデフレ調整による引下げは、3年間にわたり最大10%(年平均6.5%)、総額670億円に及び、期末扶助手当70億円も削減されたので、総額740億円(年平均7.3%)という大規模な減額であって、多人数世帯や子育て世帯ほど削減率が大きかったが、激変緩和措置として減額幅の上限を10%に設定したため、激変緩和措置の対象となった被保護者世帯は約2%にとどまり、被保護者世帯の期待的利益に可及的に配慮するという観点からも裁量権の逸脱・濫用と判断される可能性は否めないと思われる。(宇賀克也裁判官の補足意見で名古屋高裁上告審の判決文26ページから)

2) 支援団体

Webを探すと「いのちのとりで裁判全国アクション」という団体があり、支援をしておられることを知りました。 Home Pageはここです。 

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2025年6月23日 (月)

戦争大好き人間って存在するのだ

誰かと言えば、米国のトランプとイスラエルのネタニヤフ。 人殺しを何のためらいもなく実行できるのだ。

それだけではない。 戦争の危険性がある。 たぶんイラン人にとって、この2国からの攻撃は、相当長い間忘れられないと思う。 米国とイスラエルは、イランの核兵器開発阻止のために攻撃をしたのであり、平和目的と主張するはず。 しかし、そうであるならIAEAを中心とした核査察の実施徹底がまずはあるべきはず。 イランにとっては、ハイそうですかとは言えず、見通しがなくても反撃を続けざるを得ない。

昔はWar Declaration(戦争布告)と言うのがあった。 そんな手順はめんどくさい。 懲らしめるための武力行使はして良いのだという論理。 ベトナム戦争、カンボジア侵攻、イラク侵攻で米国は七面倒くさいWar Declarationなんてしていない。 そんな、米国憲法第8条に基づいて議会の承認を得るなんてことは、今やはやらなくなった。

どのような出口があるのかわからない戦争が始まった。 イランを爆撃した航空機は、どこを発進したのだろうか? 空母とどこかの国の基地だろうか? 基地のある国は、大変だろうな。 攻撃される可能性がある。 日本に米軍基地があることが良いのか、悪いのかよく考え直さないといけない気がする。

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2024年10月27日 (日)

政府財政の立て直しに向かっていって欲しい

衆議院選挙の後に期待したいこと。 それは、政府財政の立て直しである。

1) 令和6年度歳出予算(省別)

令和6年の歳出予算を省毎の金額にすると次表の通りである。

Budgetr6a

総額は、112兆5717億円であり、GDPを615兆円と想定すると対GDP18.3%である。 112兆円のなかで、金額が大きいのは厚生労働省33.8兆円、財務省30.2兆円と総務省の18.2兆円がいずれも10兆円を越える歳出予算である。 ちなみに、この3省に続くのは、防衛省7.9兆円、国土交通省6.1兆円となる。

2) 3省合計73%(82兆3千億円)の歳出は何であるか

3つの巨額の歳出がある省の予算の中で金額が大きい歳出を抜き出してみる。 厚生労働省については、次の表である。

Budgetr6b

医療保険の関係が8.7兆円、介護関係が2.5兆円、生活保護が2.7兆円、障害者関係が1.6兆円、基礎年金が12.7兆円である。 医業・介護での11.2兆円も基礎年金の12.7兆円の国庫負担も双方とも重要である。

総務省の18兆3814億円のうち16兆6543億円は地方交付税交付金の歳出予算である。 地方交付税は、規準財政収入額が基準財政需要額に満たない地方自治体(と言ってもほとんどであり、例外は東京都他の金持ち自治体)に対する地方交付税の予算である。 これも現在の地方自治制度に関係し、現状を変更することは容易ではない。

財務省の30兆2777億円のうち27兆90億円は、国債費であり、17兆2957億円が債務償還費、9兆6910億円が利子・割引料で、その他は224億円である。 なお、財務省の30兆2777億円には、原油価格・物価高騰対策及び賃上げ促進環境整備対応予備費として1兆円、そして予備費1兆円の合計2兆円が入っている。

3) 国債残高

令和5年度末(2024年3月末)の普通国債残高は1068兆円の見込みである。 そして令和6年度末(2025年3月末)の見込みは1105.4兆円と財務省は発表している。 37.4兆円残高が増加する訳だが、国債残高を維持するためには、総額112兆5717億の歳出を37.4兆円減額し、75.2兆円にする必要がある。 3省合計で82兆3千億円なので、75.2兆円にはできない。 但し、歳入を増やせば可能であり7兆円の増税をすればとなるが、現状の政府歳出を維持するなら37.4兆円の増税が必要となる。

なお、令和5年度末(2024年3月末)および令和6年度末(2025年3月末)の国債残高のGDP比は178.8%と179.6%である。

4) 医療費と年金

令和4年度(2022年度)の医療費は46兆6967億円(保険対象外医療や差額ベッド料等は除く)であった。 そして、支給された公的年金(厚生年金、国民年金、公務員共済等)の合計は53兆3986億円である。 

次の図は、国立社会保障・人口問題研究所の将来人口予測(出生中位・死亡中位)から作成した人口分布予測図である。 高齢化は、ますます進むのである。

Budgetr6c

75歳まで働いて、75歳から年金生活というのが、間もなくやってくるような気がする。 いずれにせよ、そのような時代に幸せに生きることができる体制をつくらねばならない。 現状では望めず。 財政基盤がしっかりした政府をつくらねばならない。 選挙が終わったので、増税と国債残高の減少を目差し、あかるい未来を切り開いて行って欲しい。

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2024年10月25日 (金)

ボーイングのストに思う

昨日24日の日経は「ボーイング労組、35%賃上げ案を否決 スト継続へ」と伝えています。

ボーイング労組、35%賃上げ案を否決 スト継続へ

米国の労働関係に関する知識については、それほど持っていないのですが、思うところを少し書いてみます。

1) 労働組合

報道では「ボーイング労組」との名前になっているが、正式には「International Association of Machinists and Aerospace Workers(IAM))」(ホームページはここ )です。 組合員数は退職者会員を含め60万人。 ボーイング以外にロッキード・マーチンやハーレー・ダビッドソンで働いている会員労働者も存在する。 なお、ボーイングで働く組合員は33,000人。

2) 賃上げ35%拒否の理由

まずは、35%賃上げとは、日経の記事本文にあるが、4年間で35%の賃上です。 組合の要求は40%であるので、差は5%。 年率に換算すると、それぞれ7.8%と8.8%です。

現在の米国消費者物価指数の1年前から上昇率は2.3%であり、3年前からの上昇率では年率4.4%、5年前からだと年率4.1%となります。

35%賃上げでも良いではないかと思えるのですが、話は簡単ではないはず。 ボーイングの業績は2019年以後5年間連続の赤字続きであり、2023年は22.2億ドルの純損失でした。 世界的な航空機メーカーであり国防・宇宙関係も手がけているボーイングであり、存続することに疑問の余地はない。 しかし、不採算部門の売却・切り離し、あるいは米国だったら実施可能である人員整理は十分に考えられると思う。 なお、ボーイング・ワシントン州工場での雇用人数は2020年以降減少していない。 しかし、労使双方の予想・見解・もくろみからすれば、大変なしのぎあいがあると思う。

3) 確定拠出年金401K

これは、ボーイングの401(k)に関するチラシであり、ボーイングは確定拠出年金に年間4160ドル(60万円強)を拠出するとしている。 組合の主張は、401(k)から約10年前まで存続していた年金制度も選択適用可能にすることも含まれているようです。 401(k)は万能ではなく、労働者に不利になる場合も、当然存在すると考えます。

4) 雑感

日本では、ストライキという言葉をTV、新聞、その他マスコミで最近はほとんどお目にかかっていない。 ボーイング・ワシントン州工場を一つの企業だとするなら労働者33,000人の企業ですから、大企業のストライキ。 赤字続きで様々な問題あり。 労働者が賃上げを求め、権利を守ろうとストを実行し、既に1月と10日余り経過している。 

日本でも、このようなストライキがあっても良いと思う。 ストライキ(同盟罷業)を遠慮してしまう日本の風土を感じてしまうのである。 力と力がぶつかって、しのぎあって、発展していく。 それが正常であり、発展の原動力であると、その重要性を感じる。

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2024年7月19日 (金)

実質賃金が伸びていない

実質賃金が26か月連続マイナスとの報道がなされている。 長期間の比較や他国との比較も行って考えてみます。

日経 7月14日 実質賃金とは 過去最長の26カ月連続マイナス

1) 長期間の実質賃金の推移

26か月とは2年2か月であり、もっと長期で実質賃金がどうなっているかを考えるべく、1970年以降の毎年の実質賃金の推移を2020年を100とした実質賃金指数と前年比上昇率を表示したチャートを作成すると図1の通りとなった。

データ元は、毎月勤労統計調査の季節調整済実質賃金指数の製造業30人以上であり、その1月~12月の合計を12で割って年ごとの実質賃金指数として年ごとの指数とした。

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結果、2006年が107.2で最も高かった。 1997年頃より、停滞していると言えると考える。 なお、2023年は99.3としたが、この数字は1月~4月の4月単純平均である。

2) 購買力平価 (国際比較)

賃金を国際比較するに際しては、単純に為替レートを使って比較をするより、購買力平価(PPP : Purchasing Power Parity)による換算で比較する方が、適切と言える。 購買力平価(PPP)とは、同一物を日本と外国で購入した際の価格により換算したレートであり、同じビックマックが日本で750円で、米国で5ドル70セントなら、ドル・円のPPPレートは131.6円/ドルというような具合です。

OECDの統計データに年平均賃金(Average annual wages)というデータがあり、このうちの2022年米ドルベース購買力平価(US dollars, PPP converted, 2022)を使いました。

購買力平価(PPP)なので、物価変動や為替変動からの影響が基本的には除外されていると考えられる。そこで、図1の日本の賃金指数を米ドルベース購買力平価(PPP)を同じチャート上で表現したのが次の図2です。 

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日本の賃金を2つの単位を使って、1つのチャート上に記載したのであるが、相当似通っている。 結果、OECD統計の購買力平価(PPP)による米ドル換算を使って各国の賃金国際評価を実施して大きな問題はないと考える。

3) OECD加盟国の中の17国について比較

OECD加盟国の中の17国の1990年以降の賃金について、2022年米ドルベース購買力平価(US dollars, PPP converted, 2022)による1990年から2023年までの推移をチャートにしたのが図3です。 (クリックで拡大します。)

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図3からすると、日本は17国の中でギリシャを別にすれば、唯一賃金上昇がほとんどない国です。 各国の購買力平価(US dollars, PPP converted, 2022)による賃金を大きい方から並び替え、賃金の数字も記載したのが表1です。 1990年、2000年、2010年と2022年のみを記載しています。

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韓国の賃金を見ると、1990年24,740、2000年33,114、2010年40,804、そして2022年48,056と順調に賃金が上昇している。 それぞれ、年率換算すると1990年から2000年は平均3.0%、2000年からは2.1%、2010年からは1.4%です。 1990年から2022年までの賃金上昇率を比較すると韓国の32年間の平均上昇率は年率2.10%で日本は0.13%です。

バブル崩壊後1990年代中頃以降、日本は賃金が上昇しない国になっていると言わざるを得ない感覚になります。 賃金が上昇しない国は、魅力のない国であり、解決策を考えていかねばと思います。

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2024年7月 8日 (月)

東京都都知事選小池氏が当選だが、ふるさと納税は、どうなるか?

東京都都知事選は小池百合子氏が当選と報道された。

この2023年12月8日のブログで、東京都、その特別区および市町村は連名で、総務大臣に対して、ふるさと納税制度の見直し要請を2015年12月4日に提出したことを書いた。 連名の要請とはこの文書のことである。

選挙戦では語られなかったと了解するが、方針変更は何も聞こえてきておらず、知事は当然ふるさと納税見直しを引き続き求めることと了解する。

問題点の第1は、30%相当の返礼品とその手数料は10%以上であることもあるようであり、誰が潤うか、地方自治体に癒着した業者が利益を確保する仕組みになっている。 そもそも、返礼品があるなんて、寄付金ではない。 寄付金とは、見返りを求めない純粋な人の心である。 神社、寺、教会、モスク等に寄附をする人は信者を初め多くおられる。 願い事を叶えて欲しいと寄附をされる方も、おられるが、直接的な返礼品が欲しいとして寄附される人は基本的にはいない。 返礼品とは、求めてはならない見返りを求める賄賂行為である。

問題点の第2は、住民税所得割の額の20%迄の金額のふるさと納税は2千円の自己負担で済む点である。 住民税所得割の額の20%とは、分かりにくいが課税所得額の10%の20%と考えれば、ほぼ等しいはずである。 所得控除等を差し引いて500万円の人なら、10万円程度であろうか? しかし、2000万円の課税所得の人は40万円の寄付金で40万円のほぼ全額(2千円の負担のみ)が戻ってくるとしたなら、通常は何かおかしいと感じるはずである。 まじめに働く人を卑しめる制度である。 2千円の負担で、返礼品を受領するとなるとキチガイ制度である。

第3は、善意を踏みにじっている制度であること。 即ち、地方交付税法により国税である「所得税」の33.1%、「法人税」の33.1%、「酒税」の50%、「消費税」の19.5%と「地方法人税」の100%を都道府県と市町村に配分されるのである。 地方自治体の財政、運営、地方自治のサポートが目的であり、基準財政収入額が基準財政需要額を下回った場合、差額が各都道府県と市町村に普通交付税として配分される。なお、基準財政収入額は標準税率の75%相当としている。 基準財政収入額が基準財政需要額を上回れば、普通交付税は、上回った自治体には配分されない。

都道府県では、東京都が基準財政収入額が基準財政需要額を上回わるのであり、市町村では1719のうち79が上回る。 東京23区は、上回る団体であり、普通地方交付税の交付は受けていない。

ところで、ふるさと納税についてであるが、税減収となった地方自治体は基準財政収入額に税減収がカウントされるので75%は地方交付税で補填されるのである。 一方、ふるさと納税で寄付金を受領した自治体は寄付金は基準財政収入額にカウントされないので丸儲となる。

狂人の制度としか言いようがないのだが、東京都と79市町村以外には、反対の声はあげにくい。 いや、こんな制度で悪行を働いている自治体は、廃止なんて絶対言わない。 モラル上も極めて悪質であり、日本は、このようなことで滅ぶのかなと思う。

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2024年5月14日 (火)

IMF統計での一人あたり日本GDP第34位に思うこと

IMFは毎年4月と10月に経済統計(World Economic Outlook)を発表している。 2024年4月の発表文はこのページであり、そのデータは、同ページのリンク先からpdfで見たり、Excelやcsvでダウンロードすることも可能である。

1 IMF World Economic Outlook (April 2024)による各国の一人あたりGDP

長期間の各国GDPを比較することにより見えてくるものがあると期待して、1990年からの35年間について各国の一人あたりGDP(米ドル換算)を図1として表示した。 数字はIMFの統計数値であり、各国の名目GDPを米ドル為替レートで米ドル換算し、人口で除しているとIMFは説明している。

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(図はクリックで拡大表示されます。)

図内右に掲示している凡例の各国名は2023年における一人あたりGDP金額の大きい順から並べてあります。

1995年頃において、日本はルクセンブルグ、スイスに次いで第3位であったのです。 そこで、1985年からの順位表を作成した。 それが、表1です。 なお、2010年までは5年ごとの順位表で、2010年以後は毎年の順位表とし、2024年の順位はIMFの予測値による順位です。(クリックで拡大)

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2000年当時、日本の一人あたりGDPは世界第2位であった。 2005年以後は14位から18位程度の位置であったが、2013年から2021年頃は24位から27位となった。 しかし、2022年からは33位、34位と随分後順位となり、2024年は台湾、韓国より後ろの38位と予想されている。

2 対内直接投資の残高

対内直接投資とは、外国から日本に対する投資であり、外国人にとっての日本の魅力度の結果が日本の対内直接投資と言える。 IMF統計データから作成した各国の対内直接投資残高(Inward Direct Investment Position)が図2である。 図1のGDP比較と同じく、図中右の凡例は金額順の表示としている。 日本の外国からの直接投資受入残高は2022年で30位、2,250億米ドルとなっている。

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日本はイスラエルより外国からの投資受入残高は少なく、アジアでも、中国、シンガポール、香港やタイ、韓国より小さな金額しか外国からは投資が、なされておらず、魅力のない国としての評価を受けているようである。

図3は、金額ではなく、対内直接投資残高(外国からの投資受入額残高)をGDPに対するの比(パーセント)で表示している。

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日本の対内直接投資受入残高はGDP比5.33%であり、48位となっている。 なお、最大受入国ルクセンブルグは1460%であり、第2位のオランダ275%とアイルランド264%の3国は図の範囲外上方である。 

日本の5.33%は、アジアの諸国比べても、韓国13.79%(2021年の数字)や中国19.46%、インド14.73%より低い。 米国43.16%や英国88.55%には遠く及ばず、フランス32.22%やドイツ26.76%よりも大きく離れている。 資源埋蔵国の場合は、資源開発に関係・関連する外国からの投資が生じる。 インドネシアの20%も資源開発関連が含まれていると考える。

3 日本のGDP推移

1980年以後における日本の名目GDPの推移を示したのが図4である。 単位は兆円(左目盛り)と米ドルに換算した兆米ドル表示(右目盛り)である。 

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図4を見ると、1992年に名目GDPは500兆円に達し、20年以上を経過して、今やっと600兆円に達しようとしている。 1992年はバブル絶頂期が1989年であるとすれば、崩壊が進みかけた頃である。 当時、景気対策の一環として、日銀は公定歩合を1991年7月に6%から5.5%に引き下げ、以後順次引き下げを行い、1993年には1.75%としている。 しかし、公定歩合引き下げによる景気刺激策は、図4からすればその効果は限定的であったように見える。

更に、ドル・ベースで見ると、1995年頃にピークがあり、その後2011-12年頃に6兆ドルを超えたが、この20年間低迷を続けている。

4 GDPと対内直接投資

国際間の投資とは、冷酷なものである。 投資先の国に魅力がなければ、投資をしない。 大きなリターンが期待できれば、投資をするが、リスクが大きいと判断されればしないか、投資規模を縮小する。 1980年からの対内直接投資残高を図4のGDPグラフに付け加えたのが図5である。 (2004年以前については、対内直接投資残高の数値を示した統計資料が把握できなかったので省略した。)

Jgdp2024d_20240515001801

また図4のドル・ベースのGDP推移を見ても、日本へのドル・ベースでの投資リターンには相当のリスクがあるように思える。 投資資金は米ドルでの調達とは限らないが、国際的な金融・資金マーケットにおける投資とリターンについて、自国の都合や論理は通用しない。

5 経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)における対内直接投資

2024年度は取りまとめ中であり、2023年6月16日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2023」は、ここにある。 その7ページに次の様な文章があるので紹介をする。

・・・ 海外からヒト、モノ、カネ、アイデアを積極的に呼び込むことで我が国全体の投資を拡大させ、イノベーション力を高め、我が国の更なる経済成長につなげていくことが重要である。 対内直接投資残高を2030年に100兆円とする目標の早期実現を目指し、半導体等の戦略分野  ・・・

2030年の100兆円実現の前倒をめざすとの宣言である。 2022年末では29.9兆円であった(図5)。

6 真の問題は赤字国債

図4に示したように日本のGDPはバブルが崩壊した1990年以降停滞している。 GDP停滞の原因と赤字国債発行が関係している可能性を考えるため、図6を作成した。 国債の発行を継続し、2007年の時点で発行残高がGDPを越えた。

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外国に投資するのは、その国に魅力があり、かつリスクが低いと判断されるからであり、悪材料が少ないことが望ましい。 国債とは政府の借金である。 国債償還の財源は、その国の税金であり、国債残高が大きいことは、将来の増税が予想される。 投資をする際には、投資先国の税制や税率を調査する。 投資リスク要因としては、将来の増税の可能性も対象となる。 いずれにせよ、政府債務が大きいことは、投資先の国としてのマイナス材料である。 同じ条件なら政府財政の健全な国を選ぶ。

7 国別の国債残高を比較

国債残高を金額で比較しても良いが、その国のGDPの額と対比して政府財政・債務の健全性の指標が得られる。 GDPは、その国で産出した付加価値の総額故、債務返済資金の源泉であり、返済能力であるとも言える。 日本の国債残高のGDP比のカーブを図6に加えたのが図7である。

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図8は、政府債務残高をGDP比のパーセントで表示してのOECD諸国の比較である。

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OECD統計は、国債残高ではなく政府債務という言葉を使用しており、図6や図7における国債発行残高より範囲が広い。 その為、GDPとの比率に於いても大きくなっている。 しかし、OECD統計は比較対象国について同一基準で作成・報告している。 日本の債務・国債発行残高は飛び抜けて大きいのである。 

8 雑感

国債発行残高は1000兆円を越えているが、逆に言えば、これまでに1000兆円の支出をしてきたわけで、その負担を今後・将来の世代が背負うことになる。

国債は固定金利であり、現状発行残高の50%以上を日銀が保有しており関係ないと思うかも知れない。 しかし、日銀の負債で一番大きいのは一般銀行の日銀への当座預金である。 もし、円の金利が上昇したなら、新規国債の利払いが大きくなるのだが、インパクトとしては一般銀行の預金者の利息や日銀金利の上昇になるのであり、日銀にとっては資産(貸付サイド)741兆円のうち587兆円が国債という状態で、どうなるのやらと思う。 日銀が倒産するわけはないが、かと言って、日銀当座預金を現状で保持すれば、一般銀行へ大きすぎる負担が生じると考える。 金利が上昇した状態で国債を売却すれば、国債額面割れで日銀に損失が発生。 いずれにせよ、円の信用力が落ちると思う。 誰も投資しない国・日本になる可能性があると思う。 もっとも、そんな状態になると、新規国債は発行できない。 しかし、国債の償還と利払いは続く。 将来、多額の税金を国債の利払いと償還に充当せねばならず、その分実質支出できる政府財源は少ない。

そんな悪夢をよそに、令和6年度の一人あたり4万円(所得税と住民税の合計)の特別定額減税をする税法改正が成立した。 対象者を8千万人とすると総額3.2兆円となるが、こんなばらまきは、許されるのかと思う。 ばらまき税制改正と同時に28.9兆円の赤字国債発行を決めているのであり、本来は赤字国債の発行額を減少する歳入予算とすべきである。 防衛費にしても令和6年度は5117億円を建設国債でまかなうとした。 建設国債は、本ブログ記事に於いては、カウントしていない。 矛盾だらけの予算を組み、支離滅裂な説明を行うことは信用失墜になる。

今の日本の政治はポピュリズムの罠に陥っているように思う。 コロナ給付金なんて所得に関係なく10万円支給とか酷い仕組みだった。 もっと遡れば、政府の無駄使い削減で財政再建が可能であるとウソを言ったり、どの政党も増税は口にしない。 でも、小さな政府とも言わず、大盤振る舞いの政府の政策を全政党が訴えている(競争している?)と思う。

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2024年2月29日 (木)

トイレに2億円とか10億円も支出するの

トイレに2億円とか10億円も支出するって、やはりすごいと思いました。

スポーツ報知 2月21日 万博2億円トイレ「高額とは言えない」五輪前設置の東京・千代田区の公衆トイレは1か所3700万円

これに関して検索すると、政治家は高くない発言しているニュースが出てくる (参考読売 、 日経 )。 さらに検索するとこの神戸新聞の記事があり、「2カ所がそれぞれ約2億円で契約されたという」とのこと、1か所で2億円!!大阪万博は中止して、大阪市と大阪府から国民に万博費用を返済してほしいと思う。

常軌を逸していると思うが、選挙に勝てば、何をしてもよいのかと問いかける。

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2024年1月 3日 (水)

1月2日羽田事故での優秀な日航機機長・乗務員

2023年1月2日、羽田のC滑走路に着陸中の日航機516便(A350)が滑走路上で海上保安庁機(Bombardier Dash-8 )と衝突して炎上した。 海上保安庁機は、搭乗していた海上保安庁の職員6人のうち、5人が死亡。 日航機は、乗客367名と乗員12名の合計379名は、負傷者14名との報道はあるが、全員が脱出できた。 

この1月3日 3時29分のNHKニュースに《516便 乗客の証言は》との題での乗客の証言がある。 「逃げろという明確なアナウンスはなかった」や「航空会社から的確な指示があったとは思わない」と言った発言もあり、実際の所は不明であるが、全員が無事脱出できたことは、嬉しいことである。

事故後の羽田空港の事故地点が撮影された写真を探すと、この産経新聞のフォトギャラリー に計16枚の写真がある。 これらの写真から日航機516便の着陸を私なりに推定すると、滑走路南端から350mの位置に着陸し、315m程走行した地点で海上保安庁機と衝突。 通信・制御系統は機能しておりジェット逆噴射で減速に入ったが、いずれにせよ危険な状態であり、火が大きくなってくると何もできなくなってしまう。 516便は衝突後約1600m走行し速度も落ちてきた所で滑走路を斜め右に入り、機体が滑走路から外れた地点で停止させた。 滑走路内に機体が残ってしまうと、事故調査や片付け復旧を含め、滑走路の再開に長期を要することを回避するための機体安全停止措置として操縦士は実施したのだと思う。

事故調査が行われ、管制官との交信や会話記録の調査・分析により原因は特定されると考える。 事故原因は交信が関係するミスと推察するが、何故ミスが発生したのかについても調査して欲しい。 そして、滑走路着陸後の日航機516便乗員の事故対応への評価についてもである。 責任追及ではなく、学ぶべき事を抽出するためである。 事故とは貴重な出来事であり、事故を生かすことが明日への進歩につながる。

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2023年12月 7日 (木)

難民について

11月5日のNHKスペシャルで「過去最多となった難民・避難民 世界はどう向き合うのか」という番組を放映していた。 UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の難民統計ページがここにあり、2023年6月頃の世界における難民・避難民の数は1億1千万人と述べている(うち、国内での強制移住者62.5百万人、難民36.4百万人、難民申請者6.1百万人、その他国際的保護必要者5.3百万人)。 以下は、NHKの番組では余り触れられていないと感じたことである。

1) 難民とは

日本政府は、難民条約(Convention Relating to the Status of Refugees - Refugee Convention)の説明として、次の人達を難民として説明している。

  • (a)人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有すること
  • (b)国籍国の外にいる者であること
  • (c)その国籍国の保護を受けることができない、又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者であること

2) 過去約50年の難民の発生数

NHKは難民が近年増加していると述べていた。 UNHCRの統計によれば毎年の難民発生人数は、次図の通りである。 (クリックで拡大・別ページ表示)

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2022年の難民発生数は、過去最大であり、うちウクライナからの難民が570万人とのことである。 なお、この数字には、ウクライナからロシアに避難している人々も含んでいる。 

3) 2022年の難民発生数

UNHCR統計によれば、2022年の難民発生数は10,166,908人である。 4カテゴリーに区分されており、難民(Refugee)4,177千人、難民同等者(People in refugee-like situation)2,457千人、難民申請者2,572千人、その他国際的保護必要者959千人となっている。

2022年における最大の難民流出国は、ウクライナで、その避難先国は次表の通りです。

ウクライナからの流出難民数(2022年 5,734,884人)
避難先国 難民 難民同等者 難民申請者 その他 合計
ロシア 0 1,209,915 100,833 0 1,310,748
ドイツ 820,143 180,332 705 0 1,001,180
ポーランド 956,760 0 1,542 0 958,302
チェコ 433,071 0 203 0 433,274
その他の国々 1,549,806 432,849 48,725 0 433,274
合計 3,759,780 1,823,096 152,008 0 5,734,884

2022年で次に難民流出が多いのが、ベネズエラであり、その避難先国は次表の通りです。

ベネズエラからの流出難民数(2022年) 1,223,672人
避難先国 難民 難民同等者 難民申請者 その他 合計
コロンビア 0 0 5,184 611,472 616,656
ペルー 0 0 894 178,375 179,269
ブラジル 0 0 34,073 135,046 169,119
米国 0 0 138,597 0 138,597
その他の国々 25 0 85,253 34,753 120,031
合計 25 0 264,001 959,646 1,223,672

2022年に3番目に難民流出が多かったのが、アフガニスタンであり、その避難先は次であります。

アフガニスタンからの流出難民数(2022年) 791,628人
避難先国 難民 難民同等者 難民申請者 その他 合計
イラン 0 403,293 0 0 403,293
パキスタン 0 178,107 28,450 0 206,557
ドイツ 963 0 36,358 0 37,321
オーストラリア 0 0 24,446 0 24,446
その他の国々 343 392 119,276 0 120,011
合計 1,306 581,792 208,530 0 791,628

UNHCRの統計による日本に関する2022年難民受入避難者の数を見てみると次の通りでした。

日本の難民受入数(2022年) 16,082人
非難元の国 難民 難民同等者 難民申請者 その他 合計
ミャンマー 0 9,527 298 0 9,825
ウクライナ 0 2,238 0 0 2,238
カンボジア 0 0 578 0 578
アフガニスタン 0 329 182 0 511
スリランカ 0 0 502 0 502
トルコ 0 0 445 0 445
シリア 0 216 30 0 246
パキスタン 0 0 238 0 238
その他の国々 0 0 1,499 0 1,499
合計 0 12,310 3,772 0 16,082

日本の数字について、出入国在留管理庁が2023年3月24日に発表した「令和4年における難民認定者数等について」というこの発表では、令和3年の難民認定者数は74(表8)で、人道的配慮で在留を認めた者の数が525となっています。 UNHCRの日本についての2021年の数字は難民、難民同等者、その他国際的保護必要者はゼロであり、難民申請者が2,413となっています。 UNHCRの数字と日本政府の数字に随分差があるが、難民申請があっても、他の在留許可が認められた場合、UNHCRは難民同等として扱い、出入国管理庁は滞在許可の種類でカウントしているからと思います。

4) 難民となっている人の数(難民人口)

難民となっている人口をUNDPの統計(Refugee Data Finder)より作成したのが次図である。

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2023年で難民総数(総人口)は、ほぼ1億人である。 2022年の難民増加は1,574万人と20%増加した。 この増加の中でウクライナの難民数が30%以上である。 2023年の難民人口9,893万人の出身国は次図の通りである。

Refugeepopulationb

なお、UNHCRは世界の難民人口を2022年で1億840万人と発表している場合もある(例えば、Global Trendsという報告書)。 947万人の差がる。 この差は、国内避難難民をUNHCR統計の5,732万人とするか、IDMC統計の6,250万人とするかの差から生じている。 IDMC(Internal Displacement Monitoring Center)とはノルウェイの非政府・人権活動団体(NPO)である。

国内における避難民には災害による避難民も存在するが、災害要因避難民は除外し、戦争・内乱等が原因で実質的難民となっているが、国外脱出ができていない人々の数を、国内避難難民としており、UNHCRも支援対象としている。 

5) 難民の出身国と受入国

難民の多くは、隣国へ逃れている。 戦争・内乱により国境を越えて隣国に避難する。 或いは、居住地から強制的に移動することを余儀なくされ、国境を越えることもできず国内に止まっている実質的難民も多い。 難民の発生が多い国の難民の移住先は次表の通りである。(表のクリックで拡大)

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東南アジアで難民が一番多いのはミャンマーであり、世界では12番目。 そのミャンマーからの難民の移動先・滞在先は次表の通りである。 ミャンマーにしてもそうですが、シリア、ウクライナ、コロンビア、コンゴ民主共和国の難民の滞在国は外国ではなく、国内に避難している実質的難民が一番多い状態です。最も、アフガニスタンにしても33%は国外脱出できず国内に止まっている状態です。

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難民受け入れ先国の難民人口が多い4国について表にしたのが次表です。 申請者や国内避難民を除き難民となっている人口は3,051万人なので、4国合計の難民数1,083万人は全体の3分の1を越える35%になります。 最も多く受け入れている国はイランであり、その難民の99.7%は隣国アフガニスタンから。 次に多いのは、トルコであり、90%以上は隣国シリアから。 4国については、次表を参照ください。

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難民の多くは、隣国・周辺国に避難する・せざるを得ないということが現れている。

6) パレスチナ難民

パレスチナ難民と言った場合、通常はUNHCRが支援している難民ではなく、UNRWAが支援している難民を指すことになり、難民条約(1951Convention Relating to the Status of Refugees)にもUNRWAが支援対象が条約適用の対象外とある。 UNRWA (United Nations Relief and Works Agency for Palestiine Refugees in the Near East : 国連パレスチナ難民救済事業機関)も国連機関であり、UNRWAが実施する難民支援対象は、1946年6月から1948年5月15日の間にパレスチナでの居住及び生活をしていたパレスチナ人(アラブ人)とその子孫である。

6-1) パレスチナ

パレスチナとは、中東のパレスチナ地域のことであるが、現在では狭義の意味として西岸地区(West Bank)とガザ地区(Gaza)のこととして使われていることが多くある。 第一次世界大戦終了まで、中東地域一帯ははオスマン帝国が支配していた。 大戦終了後の1920年サンレモ会議により、英国はパレスチナ・ヨルダンとイラクの、フランスはレバノンを含むシリアの国際連盟による委任統治をすることとなった。 その後、イラクは1932年に独立を成し遂げ、トランスヨルダンは1946年に、レバノンは1943年にフランスから、シリアは1946年に独立をした。

パレスチナに関しては、英国外務大臣バルフォアがユダヤ人のロスチャイルド卿に対して1917年11月2日に書いたバルフォア宣言(Wikipediaの写真はここ にある。)があり、"His Majesty's Government view with favour the establishment in Palestine of a national home for the Jewish people." と述べて、大英帝国の国王陛下はパレスチナにユダヤ人の地をつくることを支持・賛同していると宣言した。 ユダヤ民族が聖地パレスチナに国家を建設すると言う民族運動は英国の支持を得たのであり、その地パレスチナは英国が委任統治を行っている地域に含まれている。

ユダヤ人のパレスチナへの移住はバルフォア宣言以後増加していった。 次図はカナダのCJPME(Canadians for Justice and Peace in the Middle East)という民間団体の資料から作成したパレスチナにおける人口の推移である。

Palestinea

ユダヤ人はパレスチナの地主であるアラブ人から土地を購入し、購入した土地に移住したのであり、初期の頃はアラブ人もユダヤ人も仲良く隣人として生活をしていた。しかし、ユダヤ人口が増加していくと軋轢も増加していったし、場合によってはユダヤ人が購入した土地のアラブ地主の住まいはエジプトであり、パレスチナに住むアラブの小作人は突然ユダヤ人から追い出しを受けたケースも存在した。 遊牧民にとっての土地や国境に対する考え方とユダヤ人に違いはあるし、宗教・習慣の差は大きかった。

1947年11月29日国連は総会決議181号で、1948年10月1日より早い時期に、パレスチナにおいてアラブとユダヤの2つの国を作り、エルサレムを特別市とすること。 そして1948年8月1日より早い時期での英国委託統治の終了を決議した。 33国が賛成、反対は13国で棄権が10国であった。 反対を投じたのは、アフガニスタン、キューバ、エジプト、ギリシャ、インド、イラン、イラク、レバノン、パキスタン、サウジアラビア、シリア、トルコ、イエメンであった。 周辺国とモスレム国は反対した。 インドネシア、マレーシアは当時国連未加入であった。英国は棄権であった。 英国は委任統治の終了し、1948年5月14日迄に撤退することを決定した。

6-2) イスラエルの建国・第一次中東戦争

国連決議181号の前から、ユダヤ人シオニストの民間自衛組織やそれに対抗するアラブ側の民兵組織も生まれていた。 国連決議の後、衝突は更に激化し、内乱状態も発生した。

1948年5月14日英国撤退の同日、イスラエルは建国宣言を発表し、その翌日エジプト、トランスヨルダン、レバノン、シリアの軍隊・義勇軍はパレスチナに攻め込んだ。 戦争は当初の段階ではアラブ側有利であったが、イスラエルの反撃によりイスラエルの事実上の勝利となった。 停戦協定は国毎の締結となり、エジプトと1949年2月、レバノンと3月、トランスヨルダンと4月、そしてシリアとは7月になり協定が締結された。 停戦協定による停戦ラインにより、イスラエルは国連決議181号で示されていた地域より広い面積を得、エジプトはガザ地区を、トランスヨルダンはヨルダン川西岸地域を停戦ラインの内側に得た。 その後、1967年の第三次中東戦争(6日間戦争)で、イスラエルはガザ地区、ヨルダン川西岸地域、ゴラン高原を占領した。 1948年以後パレスチナに住んでいたアラブ人の中で難民となった人々は多く存在する。

6-3) パレスチナの現状(人口と面積)

1967年の第三次中東戦争によりイスラエルと狭義のパレスチナの現在の境界となったのであるが、この境界に住む現在の人口(データは2021年現在)を次表に示す。 (表クリックで拡大します。)

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イスラエルの地域は、西岸地域、ガザを合計した全面積の78%であり、人口割合では64%である。 なお、単純な比較では誤る可能性がある。 降水量の少ない砂漠地帯が多く、植林も関係するので、単純ではない。 しかし、人種割合ではイスラエル地域にアラブ人が200万人住んでいる。 3地域合計では、ユダヤ人とアラブ人の比率はは48%と49%であり、アラブ人がわずかに多い。 地域の外に出て難民となっている人を加えるとパレスチナのアラブ人人口は相当多いと言える。

イスラエル、西岸地域、ガザにおける1995年以降の人口推移を図にすると次の様になった。

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1995年を1として描くと次の様になった。

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ガザ地区の人口増加率が一番高いのである。

6-4) パレスチナ難民 (UNRWA登録難民)

UNRWAに難民の登録をしている人数はUNRWAが公表しており、その滞在地別の2022年における難民数は次表の通りである。

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シリア危機・内戦により、シリアでUNRWAに登録されているパレスチナ難民のうち約12万人は、レバノンとヨルダンに脱出していると考えられ、シリア国内に居住する難民も60%は、国内移動を余儀なくされた。

40%のパレスチナ難民は、ヨルダンに居住している。 但し、在ヨルダンのパレスチナ難民のうちヨルダン国籍を取得している人達も多い。 いつの日か先祖が居住したパレスチナの地に帰還することの希望は捨てておらず、UNRWAの難民支援は受けていなくても、難民登録は維持し、パレスチナ人として生きている人も多いのが、在ヨルダンのUNRWA難民である。 また、ヨルダン川西岸については、第三次中東戦争前の停戦ラインではヨルダン支配地域であったのである。 西岸地区に住んでいたパレスチナ難民はヨルダン国籍の取得がそれほど困難ではないと推測する。 なお、ヨルダンのみならず、この地域はアラビア語であり、アラビア地方というのがふさわしいように思う。

ヨルダン川西岸地域とガザの人口は、6-3に記載した表で1,476千人と871千人であった。 この人口を使用して上表の難民数における割合を計算すると西岸地域で17%、ガザでは70%となる。 

6-5) UNHCR対象のパレスチナ難民

UNHCRが支援しているパレスチナ難民は次表の通りです。

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パレスチナ難民の場合は、UNRWAの難民が5,713千人なので、UNRWAが関与している難民がほとんどであります。 ガザに居住するUNRWA難民の人口がUNHCRが関与するパレスチナ難民の10倍以上です。

7) 難民支援について

NHKスペシャルは「過去最多となった難民・避難民 世界はどう向き合うのか」とのタイトルで放送していたが、考えなくてはならないのは、「世界は」ではなく、「私たちはどう向き合うのか」であると考える。

日本語名称は世界人権宣言である”The Universal Declaration of Human Rights”が難民について考える場合の最も参考になると考える。 14条1項の「すべて人は、迫害を免れるため、他国に避難することを求め、かつ、避難する権利を有する。」や13条2項の「すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する。」等の文章のみならず第1条の「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。」等すごい文章が多くある。

世界には様々な紛争や戦乱と武力衝突が数多くあり、その結果が難民発生となっている。 日本の難民受入数は極めて少ない。 特定技能ビザでさえ、家族帯同が難しかったりするのだから、人手不足日本とは超保守的な国だと思う。 しかし、難民認定でなくとも同等な家族帯同就労可能なビザで支援しても良いわけで、多分難民に対する受入も拡大していくと期待する。

一方で、日本政府はUNHCRにもUNRWAにも応分の資金援助を行っており、難民受入が多い国に対しても必要な支援を実施していると理解する。 難民支援は、人道的見地のみならず、紛争や戦乱の防止、平和の樹立に効果的と考える。 武器に金を使うより、国際的な支援・協力が日本の国の安全や世界の平和に有効であることは多いと考える。

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