東芝の巨額粉飾事件の原因は、本来機能すべき会社のガバナンスが機能していなかったと考えるべきと思う。その理由を考えてみる。そうすることが経営コンサルタントとしての社会全般への貢献であるとも思う。
1) 東芝は委員会設置会社である
東芝は委員会設置会社である。
(2015年5月1日に改正会社法が施行され、名前は指名委員会等設置会社になっており、正確には指名委員会等設置会社と呼ぶべきである。しかし、今回のこのブログ内では、委員会設置会社と呼ぶこととする。)
委員会設置会社とは、2003年4月施行の改正商法特例法により導入され、2006年5月施行の会社法に引き継がれた。委員会設置会社ではない従来型の会社統治制度は、株主総会で選任された取締役により構成される取締役会が業務を執行し、そして株主総会で選任された監査役が取締役の業務執行を監査する。取締役の業務執行における不正行為を監視するのは監査役である。監査役の仕事としては、取締役並びに取締役会が不正防止のための適切な管理・監視体制等を構築しているかを監視し、取締役会に改善を勧告することもその業務に含まれる。
委員会設置会社の場合は、監査役は選任されない。株主総会での選任は取締役のみとなる。そして、委員会設置会社では指名委員会、報酬委員会と監査委員会の3つの委員会が組織される。3つの委員会の委員は、取締役の中から、取締役会の決議で選任される。業務執行は、取締役ではなく取締役会が選任する執行役により行われる。但し、取締役が執行役を兼任することは可能である。
委員会設置会社の場合、執行役が業務を執行し、執行役を選任するのが取締役会であることから、取締役会はミニ株主総会の感覚を持つ。数えてはいないが、米国では上場会社のほとんどは委員会設置会社であると思う。株主統治を重視する考え方に立てば、株主代表の取締役会が執行役による業務執行を監視するほうが不正は生じにくいし、株主の利益にそった会社の活動が期待できるとの考え方である。取締役の任期は1年であり、執行役は取締役会の決議で何時でも解任できる。
2) 監査委員会
今回の東芝の巨額粉飾事件の問題点で見落としてはならないのは、監査委員会の職務執行の適正さ・的確さである。会社法404条2項は次の通りである。
監査委員会は、次に掲げる職務を行う。
一 執行役等(執行役及び取締役をいい、会計参与設置会社にあっては、執行役、取締役及び会計参与をいう。以下この節において同じ。)の職務の執行の監査及び監査報告の作成
二 株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定 |
社長(執行役)を含む会社トップの不適切な職務執行が巨額粉飾を生んだ事件である。東芝巨額粉飾事件については、J-soxのような内部統制制度が機能しにくい面が存在する。即ち、内部統制制度とは社長(執行役)を頂点としての組織が運営・運用する制度である。トップが暴走した場合に、それを阻止する体制は、J-soxでは不十分であると私は考える。委員会設置会社ではないが、大王製紙事件や、オリンパス事件でもJ-soxは機能していなかった。
委員会設置会社の場合のトップ(執行役)の不正防止機能は、監査委員会の職務執行であり、その適正さに期待をしなければならないと考える。
3) 東芝の監査委員会
東芝の7月22日現在の監査委員会の委員は、伊丹敬之(委員長、社外)、島岡聖也(社内法務出身)、島内憲(社外)、斎藤聖美(社外)、谷野作太郎(社外)で全員6月総会で再任されている。経歴はこの東芝の株主総会招集通知を見ると外務省出身であったりで2)で書いたような執行役の不正を正す能力がどこまであったのかと疑問に思える面がある。
委員会設置会社の場合、1)において株主の利益にそった経営が期待できると書いたのであるが、逆にワンマン経営に陥る可能性も高くなるのである。即ち、一人または何人かが取締役と執行役を兼任し、この人が代表執行役のような執行役及び従業員のトップになる訳で、執行役から取締役会への報告は3月に1回で済ませることも多く(会社法417条4項)、監査委員会も取締役の開催と併せて3月に1回のペースとなることも多い。そして、実際に業務に携わっているのは執行役であるから基本的に全ての資料は執行役が準備する。取締役から執行役に対する質問についても、会社の業務に関する情報格差は大きく、各委員会の過半数を占める社外取締役が本質を捉えて執行役の会社業務について正すことには困難がつきまとうと言える。
監査委員会の能力についての疑問を書いたのであるが、任務を怠ったとなると取締役に対する株主代表訴訟の可能性が出てくる。これについては当然監査委員会の委員を含め東芝の取締役は認識しておられると思う。賠償上限金額を定めて就任していると思うが、今後の日本の会社の社外取締役はなり手があるのかとも思う。また経歴等で見栄えのよい社外取締役ではなく実務に優秀な職人的な社外取締役が望まれる気がする。
4) 日本型会社経営
独立社外取締役が取締役に就任することに反対するのではありません。東芝のように委員会設置会社とすることが日本の会社にとって良いことなのかという疑問です。企業には、それぞれ風土があり、一概に述べることは不適切と考える。しかし、日本型の終身雇用制度においては、委員会設置会社のガバナンスはうまく機能しないとの疑問が、東芝巨額粉飾事件を考えるにつれ強くなってきたのです。
代表執行役一人に、好きなように活躍させて、株主の利益拡大を最優先にする会社とするなら委員会設置会社も機能すると思う。年功序列的に社内から認められてトップになるのではなく業績回復や業績拡大を目指して競争相手から引き抜いてでもトップに据えたくなる人間がいれば連れてくるやり方の場合、委員会設置会社の仕組みはうまく機能すると思う。日本はやはり年功序列的なガバナンスであると思う。基本的には、社内風土・企業内容・人員等を的確に把握している人がトップとなり、リーダーとなって業務を執行していく。先輩を敬い、同じ釜の飯を食ってんだからと、遠慮なく意見を述べ、正すべきことは正していく。監査についても社内出身者の場合は、手心を加える面があるかも知れないが、不正の可能性を見抜くことが容易とも言える。
日本型会社ガバナンスを見直してみるべきではないかと思う。終身雇用や従業員第一というような経営姿勢から生まれるガバナンスも良いではないかと思う。株主利益優先なる経営方針やガバナンスがもたらす結果は、どうであるか、個々の会社毎に考える必要があると思う。どの会社のガバナンスの説明を見ても、金太郎飴みたいに思え、書いてあるだけではないのと疑ったりしてしまう。
5) 東芝の今後
東芝がこれくらいのことで、どうかなる訳ではないと考える。日本の将来を担う技術を保有する会社である。一方、それ故非常に残念でもある。社会に貢献することを最大の目的として会社を運営・経営をしていかれたいと望む。
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